「企業内弁護士」の将来性と激増論の線引き

      「企業内弁護士」という存在に対して、弁護士界の中には、ある種の固定的な見方がありました。一つは、所属する会社の案件しか手掛けないことから、弁護士として幅広い業務を習得できない、とするものでした。いきなり企業内弁護士となった場合、もし、会社を辞めたらば、一通りの業務を経験していないために、弁護士として通用しないのではないか、という懸念論につながっていました。

     もう一つは、そもそもの弁護士のあり方にかかわるものです。社員として企業に雇用されている立場が、企業利益追求という目的に組み込まれ、独立した法曹とはいえない、とか、さらにはイメージとして、人権擁護という弁護士の本来業務から遠い、といった受けとめ方でした。

     かつて、こうしたことは、弁護士界内でよく耳にしたような気がしますし、現にこうした受けとめ方が、企業内弁護士になることへの敬遠意識とつながっていた時代があったことも否定はできないと思います。

     しかし、これらの受けとめ方は大きく変わりました。企業内弁護士が実際には契約、不法行為、土地取引、債権回収から雇用関係・知財をめぐるトラブルや不祥事をめぐる刑事案件まで幅広く担当するという実態もあるとして、そもそも前者のような見方は「偏見」とする主張があり、そのことへの認識は広がっている印象を持ちます。さらに、「独立」「人権」ということにこだわる見方も、むしろコンプライアンス、内部統制といったことが注目され、その役割の社会的重要性が強調されるなかで、どんどん影か薄くなってきた観があります。

     そして、逆にそこに弁護士としての可能性を見出す若者も増えてきたということだと思います。弁護士が増えて仕事がないという状況が伝えられるなかで、ニーズは沢山あり、弁護士が必要とされているといわれる分野、さらには独立開業よりも安定した経済環境といったことが、敬遠から可能性への期待に変わることの原動力にはなったとは思います。

     そうした意識の変化は、企業内弁護士がこの10年で10倍にも増えたことが裏付けていると思います。

     ダイヤモンド・オンラインが特集連載「弁護士界の憂鬱 バブルと改革に揺れた10年」の第5回では、この企業内弁護士にスポットを当てています。企業に飛び込んだ2人の若手弁護士を登場させ、そのやりがいや、居心地のよさ、弁護士としてのメリットを語らせています。

     と同時に、「企業向けの法律業務ニーズは確実に増える。コーポレートガバナンス、コンプライアンス、内部統制といったキーワードを聞かない日はない。今後ますます重要性を増す」とする企業内弁護士協会会長でもある片岡詳子弁護士のコメントのほか、グローバル化に伴う海外での会社設立、現地企業との業務提携、工場用地の取得、現地での人員採用、契約書の締結やチェックなど「ありとあらゆる場面で弁護士が必要になる事態が増えて来る」、さらに海外の投資家からの提訴に備える必要もあるも増えているといった見方も提示し、まさにその将来性を強調しています。

     ただ、問題は、この企業内弁護士の将来性が現在の弁護士増員問題とどう結び付けられるのかということです。企業内弁護士の前記急増傾向を、激増させる弁護士の「受け皿」として期待する見方が「改革」推進派のなかにあります。司法制度改革審議会元会長の佐藤幸治・京都大学名誉教授は、3月23日の衆院法務委員会で、現在でも合格3000人方針を維持すべき根拠の一つとして、この企業内弁護士の急増を挙げ、これが増員の効果で、弁護士の目がこの世界に向き出したのだという認識を示しています(「『改革』設計者の止まった発想」) 。

     前記ダイヤモンド・オンラインの特集記事で評価すべきなのは、ここにきっちりと線を引いた見方を提示しているところです。

      「しかし、3000人合格を目指したことで引き起こされた『就職難』と、『インハウスローヤーの増加』『企業の弁護士採用』とは一緒の文脈で語られるべきことではないだろう。そもそも、この弁護士人数増加の旗印であった3000人という数字に、明確な根拠はない。一方で、企業は純粋に自社の戦略に合わせて人事を行う。弁護士界の根拠のない人数論は、弁護士界というインナーサークルの論理であり、企業には、まったく通用しないのだ」
      「本来的には、企業側にどのような法律ニーズがあり、どのような弁護士が必要なのかを精査し、それに対応した法曹養成制度とは何かという結論を見つけることだ。弁護士界側と企業側のギャップこそ、問題の本質なのではないだろうか。根拠のない人数論に縛られ、企業で働く弁護士が多い、少ない、もっと企業は雇うべきだという議論からは、何も生まれない」

      「弁護士界の根拠のない人数論」についていえば、確かに日弁連はこれまで「3000人」方針を含めた増員路線できましたし、「受け皿」として期待していることは事実ですが(「『企業内弁護士』への期待」)、今、現在、3000人方針を堅持するために、企業に採用を求めているわけではありません。

     しかし、増員推進論者の主張根拠のなかには、前記佐藤元会長発言のように、必ずといっても織り込まれる話です。必要な数の規模の議論を抜きに、増員政策を支える「受け皿」として、企業側にその枠を押し付けるような形は、記者が指摘する通り、企業内弁護士の可能性とは区別してとらえられるべきことです。規模の見込みとしても、あまりに大きなものを描くことはできないことを指摘する弁護士のブログもあります(「Schulze BLOG 」)。企業側にもそこまで背負わされることには戸惑いもあります。

     企業内弁護士の可能性の議論が、いつのまにか激増を肯定する根拠とされてしまうことには、それが根拠にはならないという意味でも、また、それを言っているうちは、いつまでも適材適所主義に立った適正規模の人口論議ができないという意味において、注意しなければなりません。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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