新法曹養成が煽った「期待感」

     朝日新聞の求人面に、内田樹・神戸女学院大学名誉教授が「仕事力」というテーマで寄せている連載記事のなかで、大変興味深いことをおっしゃっていました(4月8日付け第2回)

      「『ミニマム』を至上として若い人は労働市場にくる」

     この小見出しがついた一文なかで、彼がいうのは、「最小限の努力」を最優先させているように見える若者たちの姿です。学生の「何をすべきか」という価値中立的な問いかけではく、「それだけしておけばよい最低ライン」「文句を言われないミニマム」の開示を求める質問のなかに、彼は学習や労働に対する、現代若者たちの体質的な傾向を読み取ります。

      「学生たちは当然の質問をしているつもりですが、彼らが聞いているのは『ミニマム』なのです。その商品を手に入れるための最低金額を求めている。だから『大学では何も勉強しませんでした』と誇らしげに語る若者は、最低の学習能力で高値のつく学位記を手に入れた、己の力業に対する人々からの称賛を期待しているのです」
      「労働についても、彼らは同じ原則を適用します。『特技や適性を生かした職業につきたい』というのは、言い換えれば、『最小限の努力で最高の評価を受けるような仕事をしたい』ということです。すでに自分が持っている能力や知識を高い交換率比で換金したい、と」

     この一文を読んで、法科大学院を中核とする法曹養成制度のことが頭に浮かびました。同制度は、法曹教育への「理念」を掲げながら、実はこの「ミニマム」を至上とする人たちの期待を確信的にあおり、そして見離される道をたどっているように思えたからです。いうまでもなく、「点からプロセス」の教育の志望者にとっての妙味は、「7、8割合格」のうたい文句に象徴されるような、「法曹になりやすい環境」です。極端にいえば、入学さえすればまず資格がとれるかもしれない、という期待感は、「弁護士」という労働市場に対し、旧司法試験とは比べらものにならない「ミニマム」の努力で、参入できることをイメージさせたことは間違いありません。

     今、それが実は、「法曹になりやすい環境」が当初のような形で提示されないことが明らかになった時、これを推進した側は、この期待感をあおったことには触れず、なかには法曹になれなくても、修了生が「高い交換比率で換金」される社会を提示し、別の形で制度としての期待感と存在価値を未来につなごうとしているととれる声も彼らからは聞かれます。

     もちろん、内田氏はこうした若者の傾向を肯定的に見ているわけではありません。

      「そういう人は、自分が労働を通じて変化し成熟するということを考えていません。でも、『仕事を通じて成長し、別人になる』ということを求めない人のためのキャリアパスは存在しないのです」

     しかし、「改革」が罪深いように思えるのは、一つには推進する側は、そうした若者の傾向を十分に知っていたはずであること、そしてもう一つは、この「改革」が結果として、「労働を通じて変化し成熟する」ために存在していた弁護士の環境を、「求めない人」だけでなく、「求める人」にも得られにくいものにしてしまったことです。すべてを彼らの「心得違い」として括れない、「改革」推進側の打算とその失敗が見てとれる気がするのです。

     さて、内田氏は、この若者の「ミニマム」志向というべきものをもたらしたものは、「消費者マインド」である、としています。「賢い消費者」とは、最少の貨幣で、価値ある商品を手に入れることのできた者であり、それになるということが、今の子どもたちのすべてのふるまいを支配している、と。

     見方によっては「お得志向」といえそうな、それの影響とどう向き合うべきなのかは、もちろんとても簡単には答えが出せません。ただ、そもそも弁護士の激増政策にしても、どこかで低額化の競争がそれにこたえるかのような期待感をあおりつつ、実は本来、大衆がより無償性を期待するだろうサービスにどう大量の弁護士を経済的に支える形で対応するのかという課題に向き合っていない、さらにはあたかも大衆が司法におカネを投入するかのように見ていたととれることからしても、やはりこの「改革」自体が「消費者マインド」を、ナメていたのではないか、と思えてしまうのです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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