志望者の「自己責任」論

     法科大学院修了者の7、8割が司法試験に合格するという話が、実は大外れということが、確実になり、このうたい文句を信じて、入学した法曹志望者たちの「裏切られた」とする声を大新聞が最初に取り上げ始めたころ、ある評論家はすかさず、こう言いました。

      「そんなことが実現しないことくらい分かっていただろう」

     早速の自己責任論でした。しかし、これを聞いたとき、ちょっとこの言い方には、奇妙な気持ちにもなりました。なぜ、この人は、志望者は「当然」分かっていたはず、と言っているのだろうかと。受験者の数と、予想される合格者数から、この目標数値にならないことは分かっただろ、と言いたいのか、それとも、志望するなら、そのくらいの下調べをするのは当然、という「心得違い」の方を強調したいのか。

     しかし、これはただのうたい文句ではありません。政府の司法制度改革審議会の意見書、しかも、「改革」のバイブルのように引用され、目標とされているものに、はっきりと示された数字です。それを重く受けとめる人間がいても、何も責められる話でもないように思えますが、ことによると、この人は、そんな審議会の決めた数字なんて信じる方がおかしい、といっているのか、と。もちろん、そういうことではないはずです。この人は、とにかくとりあえず志望者の自己責任をいうことで、「改革」路線を擁護したかっただけだと思います。

     実は、最近、同じような響きを持つ論法を、目にすることになりました。ダイヤモンド・オンラインの特集連載「弁護士界の憂鬱 バブルと改革に揺れた10年」の第3回で、ベテラン弁護士のこんなセリフが出てきます。

      「今の若い弁護士は満員電車に無理矢理入ってきたようなもの。それでキツい苦しいって言っている。そんなことは分かっていたでしょう」

     今度は若手弁護士に向けられた自己責任論です。つまり、彼らは弁護士が限られたパイを奪い合っているのを百も承知で、好きでこの世界やってきたのだから、文句はいえまい、ということのようです。下調べという意味にとれば、ここも「心得違い」になります。

     しかし、この世界に「需要がまだまだある」、「年間合格者3000人に増やしても大丈夫」と言ったのは、一体、誰だったのでしょうか。いや、現在においても、弁護士会はじめ「改革」推進派は、依然として「まだまだある」と言っています。それこそ、「こんな話を鵜呑みにする方がいけない」という意味にでもとらなければ、自己責任論を押し付けられる話ではないように思えます。

     志望者や若手弁護士の自己責任に転嫁されることで、「改革」の見込み違いの責任が、何やら消えてしまうような、この「改革」で共通してみられる論法は、一体、何なのでしょうか。

      「いや、やはりこれは分かっていたはずで、自己責任だ」と言い切ってしまうのも結構ですが、仮にその主張が正しいこととして社会に伝わった場合、少なくとも信頼度という意味からも、現実的リスクからも、よりこの世界が志望されなくなる方向につながることだけは間違いないはずです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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