日弁連「法曹人口政策提言」への反応

     司法試験合格者の1500人への減員と、「さらなる減員」についても検証しつつ対処していくべき、とする日弁連が3月15日に発表した「法曹人口政策に関する提言」について、同月25日付けの日本経済新聞が社説で取り上げました。

      「改革の初心に立ち返れ」
     
     この見出しを見ただけでも、新味なし、本文を読まなくても内容は分かる、という方もいらっしゃるかと思います。朝日新聞でもおなじみの、こうした日弁連の姿勢を改革への逆行として、批判するものです。これまでの大マスコミの反応からして、想定内という弁護士の方は多いと思います。

      「合格者増による競争原理を働かせることが、利用者本位の質の高い法務サービスの提供につながる。これに逆行する安易な削減はおかしい」
      「『身近で利用しやすい司法の実現』を目指した司法改革の初心に立ち返って法曹人材育成の問題点を検証し、社会全体で潜在需要を掘り起こしていく必要がある」

     日経の社説は、一方で、法曹需要が司法改革の制度設計時に期待されたほど高まっていないことや、この10年間に弁護士は1.7倍にまで増え、「水増しされたような状況」になり、人気の陰りにもつながり、法科大学院の入学者や司法試験の出願者が減っている、といった現実、さらには法科大学院修了者の司法試験合格率低迷と志願者の敬遠傾向といった問題を列挙しています。

     結局、そうではあっても、司法制度改革審議会が示した方向は正しいのだから、日弁連が合格者減に舵を切るのはけしからん、ということのようです。

     以前、原案の段階で触れましたが、実はこの日弁連の提言のなかには、「1500人」「さらなる減員」とともに、注目できる箇所がありました。

      「増員目標値の前提となった需要予測が外れ、需給ギャップが生じているときに、既定の路線に従って弁護士人口の急増を続けるならば、一方では事件漁り的ないびつな需要の掘り起こしがはびこり、他方では熱心に公共性の実践に取り組む弁護士ほど淘汰の圧力にさらされて、司法制度の利用者である市民の権利保障に支障をきたす事態になりかねない」

     現在のような需給バランスが崩れた状況での急増政策が何をもたらすのかを書いているもので、司法審以来、増やすことは「国民のため」のように描かれてきた「改革」の、負の部分を日弁連として直視する立場に立ったことを意味する箇所です。

     これまでの日弁連内のこの「提言」をめぐる議論のなかで、この部分が最後まで削られることなく残るのかどうかを気にしながら見ていたところでもあります。

     しかし、最近、お話しする機会があった、ある朝日新聞の関係者の方は、まるで正反対の認識でした。つまり、この部分こそ、日弁連が削除すべき場所だと見ていたというのです。逆に言えば、それだけここの部分は、これまでの日弁連の「改革」路線とは異質という評価になるのかもしれません。

     彼は、日弁連が「1500人」を提言することとも関連して、やや奇妙なことを言っていました。

      「需要に合せた増員に舵を切ってしまっていいのか」

     つまり、彼がいうのは、今、需給ギャップがあっても、需要を開拓するための要員を確保するための増員は考えられていいのではないかということで、彼の認識としては、そもそもこの激増政策は、そういう性格のものだということのようでした。

     もともとそうではなく、大量の需要があるから増やすという話だったとは思いますが、彼の認識に立ち、開拓のために今、需要がないとみられる段階で増やすこと、ましてや本当に掘り起こす需要がなかった場合に起こることこそ、まさに前記箇所で日弁連が指摘している「事件漁り的ないびつな需要の掘り起こしがはびこり」「熱心に公共性の実践に取り組む弁護士ほど淘汰の圧力にさらされ」、利用者市民のためにはならない事態です。

     この日経の社説も、結局、ここのところは、「法務サービス需要の掘り起こしは、まず弁護士が取り組むべき課題」「地方で人々の暮らしに密着した需要をすくい上げる努力がもっと必要だ」としか書いていません。

     どうしても大新聞が認めない、あるいは伝えない現実があることをわれわれ市民は分かっておかなければなりません。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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