「市民の声」の正体

     日弁連市民会議という組織があります。日弁連の会務運営に市民の声を反映させる目的で2003年に設置されたもので、司法改革、とりわけ弁護士制度改革の一環として作られたとされています。日弁連の路線である「市民のため」の「改革」を支える一つの形を作ったというとらえ方はできます。

     ただ、「市民会議」という名はついていますが、その構成は、大学教授や大手新聞社社員など、「市民」というより、いわゆる有識者会議です。「市民の声」と括るには、ちょっと首をかしげたくなる、よくあるパターンの組織であり、この点はつとに会内からも疑問視する見方があったところです。

     それでも、おそらく当初の狙いとしては、日弁連の「改革」路線のなかで、つまりは司法制度改革審議会意見書にのっとって「改革」の旗を振り続けている以上は、日弁連の運動に対して、ある意味「市民」側応援団のような位置付けを期待する向きもあったようです。

     この「市民会議」が2009年5月、当時の宮誠・日弁連会長に対して、法曹人口・法曹養成制度問題に関する要望書を提出しています。そこで示されたのは、日弁連が法曹の質の低下や、就職難から年間3000人を目指したはずの司法試験合格者数拡大を減速させることへの強い懸念でした。

      「このような現状を国民の側からみると、司法制度改革の熱意とスピードが明らかに衰耗しつつあることが感じられる」
      「『質』の問題があるとすれば、それは、法律知識に偏した法曹像を前提にした養成制度や司法試験に大きな問題があるはずで、短絡的な法科大学院の定員削減に走ったり、司法試験合格者の絞り込みに走ったりすべきではない」
      「市民の目から見れば、定員削減は、地方を中心に未だ十分な弁護士の配置が実現していない中、東京や大阪など都市部に集中する弁護士の就職難や競争激化を解消するための、職業的政策と映る可能性も大いにあるのである」

     日弁連の法曹人口政策に対する方針転換の気配を、あたかも弁護士の経済的な事情を優先させ、「改革」の旗を降ろすことのようにいう、言い方です。その後、今日まで大新聞の論調に見られる日弁連の「内向き」批判が、自ら設定した「市民」ご意見番から出された格好です。

     しかし、「国民の側」「市民の目」と括られているとらえ方は、果たしてそう言いきれるものなのかは、当時から疑問の声がありました。何が何でも弁護士を増やすのをやめることを「改革」の熱意衰耗ととらえたり、弁護士の就職難や競争激化を解消するのを「職業的政策」とあたかも悪いことのようにとらえたり。そもそも、この激増政策や法科大学院構想自体が「短絡的」ではなかったのか、それが市民のためになるものだったのか、という疑問を提示しない彼らは、やはり普通の市民ではない、司法審路線の信者ではないかとの疑いを持ってしまいます。

     質の低い弁護士と出会う危険性や、やみくもに弁護士が増える必要性への疑問、さらには「訴訟社会」化への懸念など、本当はこの社会にあるはずの「市民の声」を、彼らの口から聞くことはできません。

     最近、当時の「市民会議」のメンバーだった大新聞の方のお話しを聞く機会がありました。彼はこの要望書が出されたいきさつとして、当時の状況から、日弁連はほどなく合格者減員に舵を切る、それを阻止するためにこれを出したと言っていました。その後、日弁連は彼の予想通りとなり、先ごろ、合格者1500人への減員と「さらなる減員」も視野に入れた提言を発表しています。そして、彼が所属する大新聞は、いまに至るまで日弁連の姿勢を「内向き」と批判しています。

      「市民に通用しない」論に立つ前に、まず、こだわるべきことは、本当に市民に伝えるべきことが伝わっているのかということと、「市民の声」が果たして本当に市民のものなのかということです。


    「司法ウオッチ」会員特典として弁護士情報検索サービス「弁護士データバンク」を追加。ただいま新規登録先着100名様、3月まで会費無料キャンペーン実施中! http://www.shihouwatch.com/membership.html

    ただいま、「次期日弁連会長に求めるもの」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。
    http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信開始!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR