日弁連「裁判員制度」改善提言の姿勢 

     今年5月で施行3年を迎える裁判員制度の見直しに向けて、日弁連が3月15日、16項目にわたる改善提言を発表しました。日弁連では、これまでの制度の運用状況を検証し、「被告人の防御権保障をより万全なものにする見地等からの法改正及び裁判員の負担を軽減化することにより市民参加をより積極的なものとするための法改正等」を求めているとしています。守秘義務の緩和や裁判員の心理的負担の軽減策などが注目されているようです。

     ただ、この意見書は、あくまで司法制度改革審議会の意見書にのっとり、かつ裁判員制度も公判前整理手続きも「概ね円滑に実施されてきた」という認識のもとで書かれたものです。そのことが、ある意味、この提言の最大のネックのように思えるのです。

     提言は、犯人性が争われるいわゆる痴漢事件や、過失の有無が争われる交通事犯などで、事実を争っているケースで、被告人または弁護人から請求があった場合、裁判員裁判対象事件とする法改正を求めています。

     これまでの対象となっている重大事件等については、被告人の選択権は認めないという制度になっています。選択権を認めれば、利用されなくなる恐れがあるわけですが、提言もその発想を変えたわけではありません。

     日弁連は意見書のなかで、司法審意見書が「新たな参加制度の円滑な導入のため」に対象事件を限定していたのであり、制度の円滑な導入が進んでいるのだから拡大は許され、拡大方向で被告人に選択を認めるのだから、弊害はない、というご丁寧な弁明の一文を加えています。要するに司法審意見書という「バイブル」には忠実であり、拡大条件である「円滑な導入」は進んでおり、選択権付与でもっとも懸念した利用されなくなるという問題がない、ということを言っているのです。

     しかし、これは果たして本当に現実的な拡大提言になるのか、という見方があります。

      「現実に検察側は裁判員裁判対象事件をなるべく減らすような運用(裁判員裁判対象罪状で身柄拘束したものを、裁判員非対象事件として起訴するなど)を進めていく中で、裁判員対象事件をわざわざ増やすような提言を法務省が受け入れるのでしょうか?」
      「逆に、この提言(裁判員対象事件拡大)を受け入れる可能性があるとすれば、法務省側としては『現行の裁判員裁判が被告人に嫌われていることは分かっているので、仮にこの提言を受け入れても現実に対象事件はほとんど増えない』『仮に裁判員裁判になって一審で検察側に不利な判決が出れば控訴して二審の職業裁判官だけの裁判で逆転させればいい』という思想になるはずです。即ち、日弁連の提案がいかに机上の空論であるかが分かろうかとしたものです」(「高野善通のブログ2」)

     そもそも弁護士として「裁かれる側」のことを考えれば、「円滑な運営」や利用されなくなる懸念とは、本来別の次元で被告人の選択権は考えられていいはずです。むしろ選択されない現実、あるいはその国民の意思を直視しない日弁連の発想を見るように思います。

     さらに、日弁連は、死刑の量刑判断について、裁判官と裁判員の全員一致を提言しています。この最大の問題は、既に裁判員裁判で出された死刑判決の扱いです。全員一致で結論を出していない死刑を執行していいのか、という問題になります。評議は罰則つきの非公開ですから、現在までの死刑判決では評議の中で何人が死刑を是認したのかが分からりません。

     これらの提言から、日弁連の姿勢に対して2つの疑問が浮かびます。一つは日弁連がこれらの提言をどれくらいの重要度を持って受け止めているのか、という点です。これらを明らかになった制度の欠陥と見て、もし、こうした改善が行われない場合は、このままの制度運用は危険として停止まで視野に入れて主張するのか、ということです。結論からいえば、答えはノーだと思います。「円滑に運営」されているという基本認識での、あくまで改善点です。全員一致が担保されない結論の危険性、市民参加がブレーキにならない可能性に、どこまで目をつぶれない話なのか、そこが伝わらず、また、そこが交渉相手からは見透かされるように思えます。

     そもそも死刑全員一致になればなったで、前記ブログ氏の指摘する通り裁判員を強硬に誘導したり、死刑判決を出したくない市民を徹底的に排除する危険性も想定されます。「概ね円滑」という認識のもとでは、この制度の無理に目を向けていないようにとれます。

     そして、もう一ついえば、これらの提言は、施行3年にいうべきことだったのか、ということです。前記のいまになって死刑全員一致を言い出すことで生じる問題はどう考えていたのでしょうか。提言は、制度導入時に、論点になっていたところという見方もできます。ただ、この答えもはっきりしているかもしれません。前記重要度の認識からくる「覚悟」でも分かる通り、日弁連はそれを制度導入の条件にするほどの認識ではなかった、ということです。

     制度導入ありき、「円滑導入」ありきの、日弁連の姿勢が、改めてうかがいしれるのです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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