「君が代」斉唱監視からの学習

      「空耳アワー」というのをご存知な方もおいででしょう。外国語の歌詞が、全く別の日本語に聞こえる歌を、面白おかしくピックアップする、あるテレビ番組の名物コーナーです。数年前、この「空耳」を逆に技法として使う、ある試みがネット上で話題になりました。対象曲は、なんと「君が代」です。

      「Kiss me.girl,your old one」

     歌い出しのこのフレーズが、「キー(ス)・ミー・ガー(ル)・ヨー・ワー(ン)」に聞こえるという具合に、「君が代」本来の歌詞の音が、それに酷似した英語に置き換えられ、全く別の意味をなすというものです。ちなみに続く歌詞は以下の通り。

      「Till you ‘re near,it is years till you’re near/
       Sounds of the dead will she know?/
       She wants all told,now retained,/
       for,cold caves know the moon’s seeing the mad and dead.」

      「Kiss me」と名付けられたこの替え歌は、前記番組のように、別に「空耳」を楽しむために作られたものではありません。実は、これは全国の卒業式、入学式で、国旗掲揚、国歌斉唱が強制される中、心ならずも「君が代」を歌わなくてはならなくなった時、この歌を歌うという反対運動グループが考え出した、大真面目な抵抗手段なのでした。

     英語の歌詞の意味も、「従軍慰安婦」「戦後補償」をモチーフにしているそうで、原曲の内容は、全くとどめていません。

     卒業式で本当に教員が君が代を歌っているか、校長が口元を監視させるという学校の登場に、いよいよこの抵抗手段が必要になるのか、ということが頭をよぎりました。こうした強制する側の行為が思想・信条や歴史認識にかかわる「踏み絵」であるならば、少なくとも個人の内心を守るという意味においては、こうした抵抗の仕方も考えられます。

     強制する側が、もし、内心まで踏む意図はなく、式典の形式として、「歌う」という外形を作りたいと考えているならば、これ以上は、強制しないという選択肢はあり得ますし、「教育の崇高な使命」などといって、愛国の精神を「君が代」斉唱の精神に被せ、「心」までこだわるというのであれば、校長は監視に向けて教頭らに読唇術でも教え込まなければならなくなります。

     この歌が出来上がった時にも賛否両論がありました。やはり、この「面従腹背」の歌を前記したような趣旨から「けしからん」と取り上げた新聞があったり、その記事でこの歌の存在を知った反対派が、「いい歌を教えてもらった」とこの記事を逆に歓迎したり。まるで「隠れキリシタン」のように、秘かにこの歌が歌われることに、「正面から抵抗できない人たちが陰湿な形で抵抗する屈折した抵抗運動」と識者が批判すれば、「陰湿というのは嫌だと思っている歌を無理矢理歌わせることでしょ」との反論があったり。

     もちろん、現在でも、この抵抗手段に対して、なぜ、正しいことをしているのに面従腹背しなければならないのか、として、賛同できない反対派もいるとは思います。あるいは社会に訴えることの意味と、「地下運動」として内心を防衛する意味のどちらに重きを置くかということにもなるのかもしれません。

     さて、今回の斉唱監視をめぐり、マスコミの報道を通し、別のことが注目されました。これを支持した大阪府立和泉高校の中原徹校長は、弁護士資格を持ち、弁護士でもある橋下徹・大阪市長の大学時代からの友人。市長も「これが服務規律を徹底するマネジメント」「ここまで徹底していなければなりません」などと、この校長にエールを送っているという話です。

     さすがに橋下流を分かってきた多くの国民には、「なるほど」と思わせるものがあるように思います。権力的で多元性を認めない政策を、「ここまでやる」「ここまでやらなければだめ」という強引さのアピールで、大衆の賛同を得ようとするスタイルは共通しているように見えるからです。

     ただ、ここでは「友人」とともに「弁護士」という共通項(中原校長は元弁護士ですが)が挙げられています。中原校長は、都内法律事務所勤務を経て、米国に留学、ロサンゼルスのローファーム勤務を経験して帰国し、2010年に民間人校長の公募に応じて、現職に採用された経歴を持っています。

     見方によっては、これは弁護士もしくは弁護士経験を持つ人間の社会的活躍の場の多様性を示す、いわば社会にいろいろな形で顔を見せることになる、活用される「弁護士」のモデル、あるいは教育現場ということでは先駆けという位置付けになるのかもしれません。

     仮にそうだとすれば、前記のような抵抗運動まで必要になるかもしれない今回の事態から、弁護士の使命でうたわれる基本的人権の擁護を背負っている専門家とは、およそ似つかわしくないイメージの弁護士登場の仕方もあるのだということを、われわれは、この機会に十分学習しておく必要があります。


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    まとめteみた【元「法律新聞」編集長の弁護士観察日記】

      「空耳アワー」というのをご存知な方もおいででしょう。外国語の歌詞が、全く別の日本語に聞こえる歌を、面白おかしくピックアップする、あるテレビ番組の名物コーナーです。数年前、この「空耳」を逆に技法として使う、ある試みがネット上で話題になりました。対象曲...

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    これもいい記事ですね。

    これもいい記事と思いましたので、ツイッターで紹介します。

    https://twitter.com/#!/kiyotaka1974

    追記

    アメリカの判例について、「最高裁は・・・支持した」の英文記事は間違いであるとの指摘を本日頂きました。控訴審の上告不受理でしかなく最高裁の判断はしてないと。こちらのブログのコメント欄です。http://www.f96jedi.com/law/2011/07/post-184.html

    私日本語ソースと英文ソースが揃ったのでつい信じてしまいこちらにもそのまま書いてしまいました。大変失礼しました。ご迷惑おかけしました。


    留学先で何を習うのか

    日本にうじゃうじゃ増殖している米国留学組(ほとんどニューヨーク州弁護士)って、一体何をしに行ってるんですか? 北里柴三郎や森鴎外がドイツに衛生学や細菌学を習いに行ったのはわかりますが、近頃の法曹(検事や判事も国費留学してるんだそうで)は何のため?

    まさか、学歴のハッタリにさらに箔をつけて、より高額なタイムチャージを吹っかけて金儲けするためだけじゃないでしょうね?

    公立教師の拒否権を認めるアメリカの判例と州法

    初めまして。ブロゴスの記事からこちらに飛んできました。

    アメリカでは国旗敬礼・忠誠宣誓について公立教師の拒否を認める判例と州法があります。
    ■モンタナ州法の例
    生徒教師に対する、忠誠の宣誓の義務と免除
    (4)学区は全生徒教師に対し、忠誠の暗誦に参加しない権利があることを周知せねばならない。忠誠宣誓に反対するどの生徒教師も、いかなる理由であれ、免除されなければならない。宣誓への参加を拒否する生徒・教師は、宣誓や学校規律を物質的実質的に乱さない限りにおいて、どのような代替行為に従事してもよい。
    (5)もし生徒教師がこの項目に従って宣誓暗誦への参加を拒否した場合、学区は評価目的で当該生徒教師の参加拒否に言及してはならない。

    その他教師の拒否権を明記する州法一覧
    http://togetter.com/li/269164

    ■判例
    Russo v.Central School District No.1,469 F.2d 623(1972),cert. denied, 411 U.S. 932. (1973) 
    1973年5月30日のCasa Grande Dispatch 紙の4面の文章内容 「…連邦最高裁は、クラスにおける忠誠宣誓の間、公立学校教師が黙っている権利を支持した。スーザン・ルソーさんは解雇された高校美術教師で…」
    http://togetter.com/li/265801

    またつい先日、イスラエル首相は国歌を歌わなかった最高裁判事を支持しました。
    ■英文記事抜粋訳
    イスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフ氏は、最近になって最高裁判事のサリム・ジュブラン氏にメッセージを伝え、約二週間前の宣誓式で国歌を歌わなかった彼の決断を支持する意向を示した。
    http://togetter.com/li/273590

    というわけで、日本はアメリカどころかイスラエル以下の人権侵害国家となってしまいました。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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