「訴訟社会」化から目を逸らさせるもの

     これが出てくると、「日本がアメリカようになる」「いや、ならない」という話になるのが、「訴訟社会」という言葉です。これまでもこの言葉をめぐる話は何度か取り上げてきましたが、こと今回の司法改革との関連で、弁護士の増員に絡み、この言葉があてはめられるような社会になることへの不安が指摘されると、推進派の方々からは、必ず米国にあるような懲罰的賠償など制度の不存在や、訴訟沙汰に対する国民性の違いを挙げられ、「ならない」が主張されてきました。

     しかし、それがこの「改革」の方向性としてみた場合、果たしてそう言い切れるのかということについては疑問があることも、依然書きました(「『訴訟社会』を支える弁護士の本当の姿」) 。

     ただ、そもそも弁護士の増員を進めようとする側の認識が、この「訴訟社会」の到来、もしくは「訴訟社会」化について、必ずしも一致しているとはいえないように思います。

     基本的に弁護士が増えることは望ましいが、「訴訟社会」は望ましくないとする立場があります。その立場からの主張は、一つは前記したように、たとえ弁護士を大幅に増やしても、この国に「訴訟社会」は来ない、ということを強弁するものですが、もう一つは弁護士の仕事の多様性を被せるものです。

     つまり、弁護士には訴訟を中心とした仕事以外にも、沢山の仕事の可能性があり、あたかも訴訟以外の場面で弁護士が活躍する場があることで、増員が訴訟社会化に直結しないことをイメージさせるものです。訴訟中心の弁護士の業態が、あたかも時代遅れとみるような弁護士界内の意識ともつながり、企業のコンプライアンスや予防法務といった場面の弁護士ニーズが思い浮かぶことになるかもしません。

     次のように書いている弁護士ブログがありました。

      「司法改革で弁護士増員を推進した人たちも、訴訟社会は望ましくないと考えていたようです。もともと、一般市民が裁判に関わることの稀有さと、弁護士の稀少性は、結びついていました。それが、弁護士のみが稀釈されました。その上で、曰く、『訴訟以外の新たな市場を創っていけ』とのこと。本来の業務(訴訟)以外のビジネスを開拓することが、弁護士に求められたのです。でも、これって無茶ブリです」
      「訴訟でキャリアを積んできた弁護士から、いきなり仕事を取り上げ(増員により、弁護士1人あたりの事件数は減少します)、別の仕事で利益を出せ、と迫るものです。ブラック企業の配置転換に似ています」(徳永隆志弁護士・アトラス法律事務所のブログページ)

     つまり、現実問題として増えた弁護士が、訴訟に仕事を求めることは分かり切っていたことであり、徳永弁護士もいっていますが、仮に前記制度ができれば、「立派な訴訟社会が出来上がるはず」(前記ブログ)。つまり、現実的に弁護士が増員される環境とは、「訴訟社会」への環境が作られることには間違いないということなのです。

     さらに、この話を分かりにくくさせるものがあります。それは「二割司法」に代表されるような、この国に司法の膨大な機能不全があるという描き方です。これは、本来司法で解決されていいことが解決されていない、そこに泣き寝入りと暴力団などが介入するような不正な解決が大量に存在していることをイメージさせました。

     そしてこの描き方は、むしろ訴訟に持ち込まれてもいいものが、持ち込まれていないということの方を強調し、消費者・市民にとって、こうしたことが解決する方向が望ましく、その意味では、この現状での「訴訟社会」化はむしろ歓迎すべきととれるニュアンスにもなります。現にストレートに、この観点から「訴訟社会でよいではないか」と述べている弁護士もいました(「『訴訟社会』と同じ顔の未来」) 。

     しかも、前記「訴訟社会」化を生まない国民性も、この描き方のなかでは、必ずしも歓迎されているようには見えません。弁護士の登場は、国民の意識改革まで伴っているように受け取れます。

     ただ、いうまでもなく、もし、大量に弁護士を増やした社会に、前記したような「新たな市場」も、「二割司法」に描き込まれた大量のニーズも、その弁護士を支える形で、それに見合うようには存在していなかった場合、どうなるのかといえば、それはまた、歴然としています。そして、今、弁護士をめぐり起きていることは、どちらの方向を示す兆候なのかも、また、はっきりしてきているというべきです。

      「社会のすみずみ」まで弁護士が行き渡り、潜在的な大量のニーズにこたえるという、司法審が描き、日弁連がそれを「市民のため」と唱え続けてきた「改革」の絵は、結果として、この国の「訴訟社会」化の現実から目を逸らさせるものになっているように思えます。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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