「改革」論議の本末転倒なアプローチ

     2月7日に開催された「法曹の養成に関するフォーラム」第8回会議では、5人の弁護士からの、弁護士の現状や法科対学院に関するヒアリングが行われています。発言の詳細は、議事録が公開されていますので、ご覧いただければと思いますが、全体的な印象をいえば、現状の深刻さを伝えるというよりは、非常に前向きで、「建設的」ととられる内容が目立ったように思います。

     法テラススタッフ1期生の浦寛泰弁護士が、法テラスを離れて、無償性の高い、弱い人たちのニーズにこたえていく困難さ、自由競争では片づけられないそうした活動を支えるため制度の必要性に触れた点は別として、全体的に今、弁護士会から聞こえてくる危機感のようなものとは、違うものが伝わっているような感じです。

     現に委員からも、ノキ弁、即独時代の伝えられている状況に対して、「何か当事者である御本人たちが意外とそういうことに関して危機感を持っていないような感じ」とか、「案外、即独とか、そういうのも結構やれるではないか」といった発言が出てしまうほど、支援する先輩側も、即独側も、そうとられる内容だったことを伺わせます。法科大学院に対しても、肯定的な発言が目立ったと思います。

     日弁連委員も少しその空気を読んでか、公式の機関のヒアリングになると、「その分野のベストセレクションと思われる方々が出てこられるという面もある」「(発言した2人は) 仕方なく即独として活動を始めたというのではなく、自ら高い意識を持って今の形の活動をしておられる」「『それは皆ができることではないし、一般化できることではないですよ』と言われる面がある」などと、そんな人間ばかりではない、というフォローを入れざるを得なかったことでも分かります。

     そのなかで、経済界側委員である萩原敏孝・小松製作所特別顧問がこんな感想を述べていました。

      「法テラスが終わった後、一般の弁護士になるというと、またそこでいろいろな競争がある。またそこで本当に飯が食えるのかという競争社会にもう1回入っていくということを、これから入っていく人たちはみんな繰り返していくんです。先生がおっしゃっている、この図形の下のほうのところに潜在的ニーズがいっぱいあると言っても、そのことで根本的な解決にはなかなか結び付いていかないのではないかという感じがします」

     前記浦弁護士の指摘を受けたものです。萩原委員は、潜在的なニーズに対して、今の政策の延長に展開される弁護士の競争、あるいはそれをもたらす激増政策で、なんとかなると思っていないのです。

     さらに萩原委員は、法科大学院修了者に、利害調整能力や論理的説得力が実際に身に付いているならば、司法試験に受からない人も民間は採用する、能力が役立つことを受からなかった人と学校側が実証しないと、卒業生だから社会に認めてくれといっているうちは、難しいといった感想を述べたうえで、率直に次のように指摘しています。

      「ロースクールの数も、弁護士さんの数も、今の経済状況を考えると少し過剰なのではないかと。この辺の全体の構造を一体全体どうすればいいのかと。最初にロースクールありき、ロースクールの卒業生ありき、司法試験の合格者の数ありき、この人たちをどうするのだといったアプローチは本末転倒なのではないか」

      「改革」論議で問われるべきなのは、まさにここではないのかと思います。法科大学院制度を作ってしまった、卒業生が出てしまった、合格者も増員することを決めたはずだ、「受け皿」を用意しなければならない――。今、起こっている問題に対して、これはまさに本末転倒であり、逆にいえば、このアプローチの中での議論は、先が見えているといってもいいかもしれません。

     これが弁護士側ではなく、経済界側委員の口から出ていることにも、注目しなければいけせん。思えば司法制度改革審議会でも、実は合格者3000人の実現に懸念を示したのは経済界側委員であり、それに対し、「大丈夫」と太鼓判を押したのが、出席した当時の日弁連会長だったという事実もあります(「日弁連が『3000人』を受け入れた場面」)。

     前を向いたまま、方針を議論するだけでなく、どこからボタンをかけ違えたのか、振り返り、そこに立ち返ることもまた、今、必要のように思います。


    「司法ウオッチ」会員特典として弁護士情報検索サービス「弁護士データバンク」を追加。ただいま新規登録先着100名様、3月まで会費無料キャンペーン実施中! http://www.shihouwatch.com/membership.html

    ただいま、「次期日弁連会長に求めるもの」「法曹の養成に関するフォーラム」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。
    http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信開始!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR