「改革」論議が戻る地点

     2月22日に開かれた衆院法務委員会で、自民党の稲田朋美議員が、「給費制」と法曹養成について取り上げ、小川敏夫法相の見解を質しています。

     「給費制」の問題で稲田議員は、2010年に貸与制移行を1年間延期する際の附帯決議で「法曹の養成に関する制度の在り方全体について速やかに検討を加え、その結果に基づいて順次必要な措置を講ずること」とされていたことに関連し、「この必要な措置を行わずに貸与制移行に関する措置だけ行うというのは、この決議を軽視しているのではないか」としました。弁護士会側から出ている、法曹養成全体を議論するという前提を欠いているという批判論です。

     これに対して、小川法相は、こう述べています。

     「給費制につきましては昨年の、その前に、その決議を受けまして、法務省では、法曹養成フォーラム、各界の人、有識者等を集めてそれを検討する場を設けまして、それで、給費制、貸与制の問題につきましては、昨年8月に、貸与制に移行して、ただ、貸与の条件をさらに借りやすくするということに改めた次第でございます」
    「そして、法曹養成制度そのものについては、今まさにこの法曹養成フォーラムで検討しているところでございまして、さまざまな点を議論してよりよき法曹制度に戻していきたい、このように考えております」

     一方、法曹養成で、稲田議員は、司法試験の年間合格者が、3000人の目標に対して約2000人にとどまっていること、2011年に司法修習を終了した修習生のうち、就職先が未定の修習生が同年9月時点で35%、修習終了時に弁護士登録できなかった人が21.9九%、400人、さらに多様な人材確保の面でも社会人経験者は764人だけで、2004年の2792人から7割も減ったことを挙げ、「もう根本的にこの法曹養成制度を見直すべきだ」として、法相の見解を質しました。これに対する答弁で、小川法相はこう言っています。

     「やはり、法曹養成人口も3000人、3000人という中には、法曹というものを司法の場だけでなくて、企業活動とか公務員とかさまざまな、活動範囲も広げるという中で3000人という増員計画もあったようにも思います」
     「ただ、そうした状況がなされないまま、数も3000人にはいかない、2000人でも今委員が指摘するような状況の中で就職できない人がいるというような状況もあって、やはり当初の制度の理念とは違う現実が生じているということは認識しておりますので、こうした本来のあるべき姿に改善すべく、しっかり取り組んでいきたいと思っております」

     やりとりは以上で、終わってしまいます。この問題に関心を持つ弁護士の方の中には、この答弁に見るべきものはない、目新しいものはない、と思われる方も少なくないようには思います。「給費制」問題に触れて法相が強調しているのは「法曹の養成に関するフォーラム」の存在で、当然「貸与制」移行決定の前提の議論として機能しいていること、法曹養成全体の検討についても、この結果を見守る姿勢です。

     ただ、言葉尻をとらえるわけでもありませんが、一つ妙に感じるのは、「よりよき法曹制度に戻していきたい」とは、どういうことなのでしょうか。法相は、どこに「戻す」というお考えなのでしょうか。

     同じような感じが、法曹養成の答弁にもあります。そもそも質問者は法科大学院制度、新司法試験の現状から、法曹養成の抜本的見直しへの法相の見解を質していますが、即座に法相の口から出たのは、法曹人口と弁護士の「受け皿」の問題でした。一つの解釈として、彼が強調したかったのは、この法曹養成問題の根本が、年合格3000人や、弁護士の活躍の場にあるという意味で、司法審路線が掲げた目標の未達成こそ、現在の基本的な課題ととらえているという見方はできます。

     問題は、その先です。「こうした本来のあるべき姿に改善すべく」とは一体何なのでしょうか。その前の「当初の制度の理念とは違う現実が生じている」という下りからして、司法審路線を絶対と見れば、そこに掲げられた「正しい」理念に向けて現実をどのように改善するか、といっているととることになると思います。そうだとすれば、弁護士の活動範囲を広げることで、増員基調を維持できれば、基本的には法曹養成の問題は解決への道が開けると言っているようであります。「改革」推進論者や法科大学院関係者から聞こえてくる声と重ねて、そう考えれば、確かに目新しくはありません。

     ただ、仮に前記「戻る」という言葉を文字通り、正面から受け取るとすれば、「本来のあるべき姿」とは、この司法審路線が描いた図以前に立ち返ることを意味してもおかしくありません。「当初の制度の理念とは違う現実が生じているということ」を認識している彼が、その理念の描き方そのものが違っていた、10年後に生じる現実を読み切っていなかった、そもそも想定するような検証をしていなかった、と解釈しても何も不思議ではないはずなのです。

     法相の頭にあることが、確かに前記「目新しく」ないことで、これは単なる表現上の問題なのか、それとも「改革」に対する意見の対立があることを踏まえて、あえてどうにでもとれるぼやけた表現が用いられたということなのか、はたまた実はここに別の彼の「本音」ともいうべき意図を込めたのか――。

     この深読みに何の意味があるのか、と言われれば、それまでですが、ただ一つ言えることは、法相のこの答弁は、これからの「改革」をめぐる論議が、一体どこに「本来の姿」を見定めて、どこまで「戻る」のか、その根本的な問題があることを奇しくも教えているように思えるのです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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