「得意な分野」への接触障害

     弁護士を求めている市民にとって、おそらく最大の関心事は、弁護士の「得意な分野」です。正確に言うと、弁護士選びで候補に挙がった人に関する情報で、最も知りたいのが、この点であるということです。それは、以前いた新聞社への市民からの問い合わせで、常々感じていたことでした。

     最近では、弁護士側もホームページなどで、公開しているケースが多くなりましたが、それこそ20年くらい前までは、およそ弁護士はそうしたことに消極的で、なかなか目にすることもありませんでした。

     長く弁護士の広告が規制されていたこともありましたが、かつての弁護士は、そもそも自分から何か得意だなどと、売り込むことをしたがらないような風がありました。プライドが高かったということかもしれません。今も全くないとはいえませんが。だから、かつては弁護士の「得意な分野」について、市民は、およそ口コミ・噂でしか情報を得ることができなかったといってもいいと思います。

     そういう意味では、弁護士の意識が変わってきたのは間違いありません。

     ただ、現在も、多くの場合、「得意な分野」の表記は、刑事、民事、商事、あるいは離婚、債権回収、不動産、企業倒産といった、ジャンル分けです。複数の弁護士の検索サイトなどでも、要するに工夫のあとがみえるのは、実質、このジャンルの細分化までです。

     ところが、依然として、市民からは、かつてと同じように、「得意な分野が分からない」という問い合わせがくるのです。要するに市民は、異口同音に「もっと具体的なことを知りたい」というのです。

     ただ、これはいろいろな意味で難しい面があります。そもそも市民がどういうことを求めているかといえば、自分が現在抱えている案件を担当するのに、能力的に最も適している弁護士に関する情報です。したがって、自分の案件に似た案件を、かつて良い形で処理した、もしくは裁判で勝った、といった実績を知りたいのです。結局、大まかな「得意な分野」を見ても、その裏付けがとれない、ということなのです。

     しかし、案件を文字として表現するのは、意外と困難です。果敢に挑戦されている方もいますが、弁護士には守秘義務があり、限界があります。もちろん、自分が扱った各案件を書ききれるものでもなく、仮に、こういう案件をこんな風に処理したと通り一遍に書いても、これはこれで必ずしも市民が満足するとも思えません。

     案件の処理は、それこそ個別的な事情で違ってきますから、ひとくくりに「こんな風な案件はこんな風に処理した実績があります」といったくくり方は、逆に期待を裏切りかねない面もありますし、弁護士が慎重になるのもうなづける話です。

     もっともこんなことを言っては、身も蓋もないかもしれません。前記したような、いわゆるジャンル分けでも、あるいは出来る限りの案件処理の実績説明でも、「役立っている」という市民もいるでしょうから、駄目だという話ではもちろんありません。

    この点については、市民側に、では具体的にどうしてほしいかを尋ねてみても、「具体的に知りたい」というだけで、前記した表現上の限界を踏まえれば、なかなか妙案があるわけでもありません。市民の過剰期待があることも事実です。

     結局、公表されている「得意な分野」は現在のところ、大まかな弁護士選びの当たりをつけるためのものです。細分化は、その意味では、絞りをかける意味はあります。ただ、そこから先の労力は、どうしても市民が負っている形です。弁護士の著書などをみれば、より具体的にその経験を理解することもできますが、そういうものを書いている弁護士に限られ、しかもそれも労力がいる話です。

     ただ、今後も、さらにいろいろな工夫は模索されていいと思います。少なくとも、情報公開のそのものについて、弁護士として後ろ向きな姿勢はとるべきではありません。依然として、前記したような形でも「得意な分野」すら公表したがらない弁護士もいます。

     また、弁護士の数が少ない地方ではある意味、仕方がない事情もあるようですが、「得意な分野」を公表する場合、オールマイティを強調してしまう弁護士が並んでしまえば、市民からすれば、結局、比較する材料とはならず、もはや何も言ってないのと同じになってしまうこともあります。

     弁護士側としては、どういう情報を市民が求め、そのうちどういう情報が、どういった形でならば公表できるか、こまめにリサーチすることも含めて、それこそ前向きな検討が必要です。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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