弁護士は医者と同じ?

     医者と弁護士。一般大衆の話のなかでは、この二つはよく並べられて使われます。両方ともその道の専門家ですが、どうもそのことよりもなによりも、こういう組み合わせで使われるときのニュアンスは、どちらかというと社会的ステータスに重きを置いたもの。いつのまにか、この二つの職業は、この社会で、社会的地位が高いお仕事の代表選手になっているようです。転じて、ともにしっかり稼いでいる話にもなっていきます。

     弁護士自身は、自らを医者にたとえられることをどう思っているのでしょうか。高い社会的地位を医者と比べられることにご満悦な弁護士も中にはいらっしゃるかもしれませんが、むしろ、そうではなく前記した「その道の専門家」ということでは、実は弁護士界では、お仕事のイメージとして、弁護士を医者にたとえよう、という話になっているのです。

     これには伏線があります。政府の司法制度改革審議会が2001年6月に発表した、最終意見書です。文字通りこの国の司法制度の改革の方向性を示したこの審議会のことについては、いずれまたお話することになると思いますが、現在に至るまで、法曹界で改革の「バイブル」のように扱われている(そんな風に全く思っていない方々もいますが)、その最終意見書にこんな記述がありました。

    「国民がその健康を保持する上で医師の存在が不可欠であるように、法曹はいわば『国民の社会生活上の医師」』の役割を果たすべき存在である」。

    「社会生活上の医師」?なんのこっちゃ、と思われる方もおいでかと思います。これはこういうことです。お医者さんが日ごろ病気と向き合っているように、法曹は法律の専門家として適切な予防方法や対処法をアドバイスする、より身近で親しみやすいパートナーを目指すべきなのだ、と。

     法曹という言葉は、弁護士ほか裁判官、検察官を含む法律に携わる仕事の人を指しますが、この意見書の文脈は、とりわけ弁護士という存在に向けられているととれます。現に裁判官や検察官で、自らを医師にたとえる話はあまり聞いたことがありません。医師の身近なパートナーというイメージは、独立した自由業である弁護士に結び付けやすいということでもあります。

     これはいける、と思われた弁護士の方々が、この世界には沢山いらっしゃったようです。市民から「敷居が高い」ととられていることが、いわばアクセス障害と感じている弁護士にとって、医者のように、身近で気楽にかかれる存在を目標とすることはうなずける話ではあります。この意見書以前にこの世界で弁護士は医者を目指すべき、としていた人は、主に弁護士が事後的な事件処理だけでなく、紛争の「予防」の役割果たす存在になるべき、との視点から唱えてもいました。

     一般の市民感覚としても、結構な話じゃないか、と思われる方々もいらっしゃるでしょう。政府の審議会も、たまにはいいことをいうじゃないか、と。

     でも、はっきり言います。医者と弁護士は全く違います。

     考えてもみてください。医者という存在は、市民だれもがまずお世話になります。入院しなければならない病気にもいつなるかわかりませんし、風邪やちょっとしたケガなど、まあ大概の人は嫌でもお医者さんに行くことになります。人生の最期にも、まずお世話にならざるを得ません。

     弁護士は違います。少なくとも現在、一般市民にとって、「弁護士のご厄介にならなきゃならなくなった」という場面は、極めて異例の事態。あるいは降って湧いた災難かもしれません。大概の人がかかわらなくて済んでいる、という現実の違いは決定的なものがあります。

     弁護士が医師に自らをたとえる意味を理解しながら、なぜ、こんな意地悪な言い方をするかといえば、基本的なことですが、実はこの点を弁護士はよく分かっていないんじゃないか、と思うことが度々あったからです。

     企業や団体のように恒常的に弁護士とお付き合いがある関係は別として、一般の市民にとっては、ある案件での弁護士とのお付き合いは、一生に一度あるかないかの代物です。ほとんど次はありません。一回こっきりの大勝負で、身体や財産が決定的な状態になるのです。親しみやすさといっても、仕事の性格が違いすぎます。

     こういうと、弁護士の方からは、「今の日本社会の現状を前提としているのではなく、国民の意識改革も含めて、予防という意味でも弁護士が身近になるような社会を目指すべきなのだ」とおっしゃる方もいそうです。それはそれで結構ですが、やはり問題は当の国民が果たしてそういう社会を求めているか、です。日常のささいな法律問題から紛争になりそうなことまでを、いちいち弁護士に相談する社会を本当に国民が望んでいるか、の話です。現実の一般市民が、審議会のいうような「健康保持」を求めるように、法律家を求める実態が本当にあるのでしょうか。

     法律問題悩む市民はいます。その人のために体制を整えておく必要はあります。どうアクセスを確保しておくかの課題はもちろんあります。だが、あえていえば、法曹に対して、予防を含めて、「医師」に求めるようなニーズが、現にこの国に存在しているかのようなイメージの描き方は、やはり違っているように思います。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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