「朝日」が見ようとしない「改革」の現実

     相変わらずの朝日新聞の論調です。2月26日付け社説「日弁連会長選 利益団体でいいのか」。もはや伝わってくるのは、どうしてもこういう形に描きたい「朝日」の「熱意」だけです。

     再投票にもつれこんだ日弁連会長選挙。その候補者2人がいずれも現在の司法試験合格者2000人を1500人以下に減らすことを掲げているのが、「数が増えて仕事がない」という会内の声にこたえた内向きのもので、「人々の法的ニーズ」を満たす方向に向いていない、「縮み志向」だと。それをいつもながら弁護士の「心得違い」とつなげて批判しています。

     しかし、繰り返しますが、これは「朝日」の描き方というしかありません。朝日は①原発事故の賠償が進まない②日本企業への信頼を失わせたオリンパスの役員に法律家は人もいなかった③国境を越えたトラブルの防止や解決を任せられる弁護士が極めて少ない④弁護士過疎地でのやる気のある弁護士が仕事を始めて人権にかかわる多くの問題が掘り起こされた――といったことを挙げ、どうもこれらを弁護士増員の必要性とか効用と結び付けたいようです。

     これらに対する弁護士としての率直な意見を書いているブログ(「PINE's page」)がありますが、いうまでもなく、こうした事実があったからといって、弁護士を大量に増やせばいいことになるかは甚だ疑問です。もし、列挙されているような弁護士が必要であるならば、まず考えなければならないのは、いずれも適材適所ともいうべき、そのための弁護士を用意しなければならない話です。そもそもニーズがあるというだけで、どの分野にどのくらいの規模の弁護士が必要かを考えず、「二割司法」というコピーのなかに、大量のニーズを描き込んだツケが今、回ってきているといえます。どうしても「朝日」は、そのことを見ようとしません。

      「事務所で相談者が来るのを待ち、安くない報酬をもらい、法廷に出す文書を作るのが主な仕事で、あいまに人権活動も手掛ける。そんな昔ながらの弁護士像はもはや通用しない」

     いかにも弁護士の「心得違い」をいう言い方ですが、現実は少々違います。結論においては、十分に自覚されている弁護士も少なくないとは思いますが、そのことよりも、実際に市民にもたらされようとしているものは何でしょうか。増員によって弁護士が経済的に追い詰められるほどに、人権活動をする弁護士は増えるのでしょうか。「あいま」どころか、それどころではない、もはや関心もない弁護士が増えて当然です。その点も、「朝日」はどうしても目をそらしたいようです。

      「法科大学院のありようを見直したり、必要な法律や制度を整えたりするのはもちろんだが、同時に弁護士が意識を改め、仕事に向き合う姿勢を見直していかなければならない。残念ながらこの2年間、日弁連のなかでそうした問題意識は十分な深まりを見せず、はた目には既得権益の擁護としか見えぬ主張を繰り返してきた」

      「朝日」は宇都宮執行部の2年間を批判しています。やはり、旧主流派の執行部よりも、現執行部は「改革」に逆行し、「心得違い」が目立ったといいたげです。しかし、前記2候補の「内向き」と評した合格者減の主張についても、「はたして多くの国民はどう聞くだろうか」と投げかけ、「はた目には既得権益の擁護」と言いますが、これもある意味、「朝日」の描き方です。

     読者の「そうだ、そうだ」という声を期待しているのは分かりますが、「改革」がどうして失敗しているのか、現在の増員政策が本当は何を生み出そうとしているのか、弁護士を追い詰めて、大衆にとって何かいいことがあるのか、そのことをフェアに伝えていたら、果たしてどういう反応が返ってくるのかは分からないことです。社会の隅々にまで弁護士が登場し、これまで弁護士や司法に頼らなかった案件まで頼る社会を本当に国民が望んでいるのか、そのことも問われていいはずです。

     一カ所だけ、「朝日」はこれまでにない妙なことを書いています。

     「私たちも無理な増員を進める必要はないと唱えてきた」

     残念ながら、「朝日」の論調に対して、およそ、そういう認識の弁護士はいないと思います。それに続く、「本当に弁護士は社会にあふれているのか」という文脈からすれば、経済界がいうような、「淘汰」論理とは一線を画す意味合いがあるのでしょうか。それとも「あふれていない」「無理ではない」ということを強調したかっただけでしょうか。しかし、大量の弁護士を経済的に支えきれるだけのニーズも、前記適材適所主義に立って必要とされる弁護士の数も考えずに、大増員を既定方針とした「路線」が、「無理」ではなかったと「朝日」はあくまでいっていることになります。

     「利益団体でいいのか」と「朝日」は、見出しをふっていますが、弁護士を利益中心に走らせようとしているのは、むしろこの「改革」ではないのか――。「朝日」が「あるべき改革」の絵を描きながら、どうしても目を背けようとする、その不都合な現実がまず伝えられるべきです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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