日弁連「改革」路線の先にあった分裂

     「私たちにとって必要なことはなにより仲間割れしないことです。仲間割れは単に私たちの力をそぐだけでなく、目標自体を見失います」

     1990年に日弁連会長に就任した中坊公平弁護士は、機関紙上に掲載したあいさつで、こう述べました。彼はこのなかで、「公正で充実した司法」を掲げ、10年先を見通した行動計画の樹立と、その前進を唱えて、そのための日弁連会員の団結を前記のような表現で呼びかけたのでした。

     しかし、皮肉にも彼が推進し、その後、彼の名を冠して「中坊路線」とまで呼ばれるようになる日弁連の「改革」路線は、現在に至るまで、日弁連が体験したことがないような深い対立を内部に生むことになりました。

     1998年から2008年までの6回の日弁連会長選挙で、毎回、日弁連の「改革」路線に反対する候補者が出馬し、「改革」を主導する主流派(旧主流派)の候補者と対決し、3000票を上回る固定的な支持を集めてきました。かつては選挙が終われば、水に流してというムードもあった会長選が、この路線対立があるこの間の選挙では、戦後の様相も一変。「反執行部」派と呼ばれる勢力は固定化し、次回選挙も候補者擁立に動き、選挙と選挙の間も対立が続く。ここまで長期に、大きな規模をもって、日弁連が、いわば「野党」的な存在を内部に抱えることも、いわば「中坊路線」が登場するまではなかったことでした。

     状況に変化があったのは2010年、反改革派で連続出馬していた候補予定者が、懲戒問題で出馬できず、同派が擁立を断念。代わって従来の反改革のスタンスとは違う、いわば「改革」路線に対して修正派といえる立場で現会長の宇都宮健児弁護士が、主流派と対峙することになり、史上初の再投票で当選しました。主流派がついに「下野」する形になったのです。

     そして今回の選挙で、旧主流派の分裂2派、旧来の反改革派、そして史上初の再出馬である現職の4者対決が、ご存知の通り、再び再投票にもつれ込んでいます(「日弁連会長選2期連続再投票の行方」「合流の見通しが立たない分裂状況」)。日弁連の分裂状況は、大都市での総得票でトップの支持を集め、最多票獲得会数で当選基準を満たさない候補と、地方で圧倒的に支持を集める候補の再投票が2期続き、さらに今回はそれでも決着がつかず、再選挙の可能性までいわれるまでに至っています。

     それは、ある意味、「中坊路線」以降の対立の一つの到達点ともいうべき状況です。既に書いたように、この「ねじれ」が、会長選出をえんえんと決着させないことまでが起こり得るという、日弁連自体が想定していかったところまで事態が来ているからです。

     さて、「ねじれ」といえば、国政でも「ねじれ国会」といったことがいわれています。最近の橋下徹・大阪市長が物議をかもした「参院廃止」論をめぐっても、「ねじれ」がもたらす弊害がいわれ、それは常に「決定」を阻害する観点から強調されます。しかし、一方で、「ねじれ」を生んでいるのはあくまで民意。そう考えれば、そこに少なくとも、ストレートな「決定」に歯止めがかかっている、民意が歯止めとして機能しようとしている、ともとることができます。つまり、「ねじれ」は単に「決定」阻害ではなく、そこに読みとらなくてはならない意味が存在していることになります。

     その意味で、この分裂の一つの到達点である日弁連会長選挙にみる投票結果の「ねじれ」は、まさに会員弁護士世論の反映、「民意」とみることができます。いずれこの選挙が決着しても、「ねじれ」を生んだ会内の「民意」は存在し、もちろんそれはかつてのように、選挙の決着によって、自然と一方に合流したり、対立が解消される性格のものではないことは確かです。

     「改革」に対して、スタンスが違う同士、どちらが勝利しても、この結果は、実はゼロ・百で今後の日弁連の方向を論じられるものではないように思います。とりわけ、旧来の路線に対する維持か修正かということであれば、この分裂的世論状況に至っていることそのものが、より維持派側に反省材料として受け取られていいはずです。しかし、それも現実的には、どこまで期待できるのかは分かりません。

     今、冒頭の中坊弁護士の発言を見れば、彼は「改革」による会内の分裂を当然予想していた、それゆえに「仲間割れをするな」と会員に呼びかけたととれます。ただ、彼の見通しも、おそらくここまでの修復不能なものになるとは思っていなかった、あるいは反発する会員のもっと早い断念と合流をどこかで期待していたのかもしれません。事態はそうはなりませんでした。

     しかし、その先の問題として、日弁連が力をそがれ、一丸となれる目標を喪失するという意味では、彼の予言した危機が迫っている観があります。それもまた、弁護士会員のみならず、この社会もまた、覚悟しておかなければ段階に入っているように思います。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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