「改革」への反省なき見直し論議

     1月27日に開催された「法曹の養成に関するフォーラム」第7回会議で、オブザーバーとして出席した若旅一夫・日本弁護士連合会法曹養成検討会議委員が司法修習終了者の就業状況と課題について報告したなかで、弁護士の就職難についての日弁連の認識として、こんな見方を提示しています。

     「資格を得た個人に着目すれば、自由競争だから仕方がないということかもしれませんが、多くの時間と公費をかけてせっかく養成した人材に仕事がない、活用されないというのは大きな社会的損失だろうと。国の司法政策として司法を担う人材の育成・活用という次元からも、考える必要があるのではないかということです」

     これに対して、このあと発言に立った鎌田薫・早稲田大学総長は、こう言っています。

     「日弁連からの御報告では、司法試験を合格しても就職できない人を生み出すのは、国家的・社会的喪失だというお話がありましたけれども、法科大学院を出て司法試験にも合格できない、就職もできないという人を大量に毎年、何千人もつくり出すことのほうがもっと大きな社会的損失かもしれないと思っています」

     このやりとりは、ある意味、かみ合っていると思います。なぜ、そう思えるかと言えば、あくまでこの「改革」の枠組みを大前提にした共通の認識のうえに両者が立っているからです。何で活用されない数の人材が多くの時間と公費をかけて養成される結果になっているのか、何で修了しても合格できない、就職できない人を大量に作り出す法科大学院が存在しているのか、は問わないことで一致しているかのようです。

     要するに、社会的損失になるような増員、それを支えるために導入された法科大学院制度という政策自体は省みず、どちらも現状では「社会的な損失」が生まれているからなんとかしろ、といっていることになります。片や「受け皿」をつくれということであり、片や折角の法科大学院が存続するために、司法試験の合格と「受け皿」を用意せよ、と。

     こうした話は、この後の井上正仁・東京大学大学院法学政治学研究科教授の発言でも登場してきます。

     「先ほど日弁連のほうから出ました人口問題ですけれども、これについて議論していただきたい点として、現在の2000人という合格者数を1500に減らすべきだということが一部で主張されているようですが、この1500人というのは、実は司法制度改革が始まる前にそこまで増やそうという合意ができていた数字なのですね。ですから、その人数にするというのでは改革前に戻ってしまい、改革で手をつけなかったのと同じ結果となってしまいますので、その辺も考慮して議論していただくべきではないかと思います」
     「司法試験については問題がいろいろあるという御指摘がありましたが、そうでありながらも、現在2000を超す人が合格している。つまり、今の制度でも2000人以上法曹資格を認め得るだけの学力があると認定されているのに、法曹界のキャパシティがないなどの理由でこれを削るというのは、本来資格がある人なのに法曹となるのを塞いでしまうことになり、果たして適正といえるかどうか、そういう視点からの検討も必要だと思われます」

     彼は一体、何を考慮しろ、と言っているのでしょうか。1500人ということでは「改革」をやらなかったことになる、と。現在の「改革」で実際に起きている問題から主張されている1500人という数の提案に対し、「改革」のメンツにかけてその数にはできない、といっているかのようであります。現実的な「改革」の見直しで、本当にそれは「考慮」されて議論されるべきものなのでしょうか。

     「法曹界のキャパシティ」という言い方もよく分かりませんが、2000人を合格させることの妥当性は問わず、「資格」があるんだからなんとかしろ、と。支えるニーズや影響を考慮しないで、「資格」のある人間は法曹にせよといっていることになります。

     もはや社会にとって必要かも、こうした発想のしわ寄せが社会にどうくるのかも、「考慮」していないようにみえます。

     「『改革』の見直し」ということが言われますが、大本の「改革」構想への反省なき見直し論議が、どういう前提で進んでいくものなのかが、端的に示されているように思います。


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    No title

    >私の言っているのは現行制度を前提にした制度の運用の話

    よくわかりませんが、あなたの立場は
    「制度がどれだけ不公平で、特定団体の利益のために合格基準を大幅に変更させたものでも、特に批判はしません。
    しかし、その不公平な制度の運用に関してだけは、合格基準の公平さを強く求めます」
    ということですね。私には意味不明です。

    >労働市場の需給調整を試験の合否判定で行うという発想がそもそも筋違い

    根本的に誤認してないでしょうか? そもそも大増員自体、需要がいっぱいあるからという理由で、政策的に合格者を増やしたものですよ。
    ところが大増員に見合う需要なんてなかった。これは司法改革推進派も前から認めています。
    (だからこそ彼らは、「潜在的需要の掘り起こし」 と後付けで言い出したり、「競争淘汰こそが司法改革の原点」 と捏造までしなくてはならなくなった)
    需要がなかった以上、政策的に合格者大増員を継続する理由はありません。

    あと、あなたは違うようですが、大増員継続派の多くは大増員自体が正しいと思ってるのではなく、ロー制度を延命したいのが主眼です。
    「ローはなくなってもいいが、合格者は減らすな」 というあなたの立場だと、現実の政策論とはかなりかけ離れたものになりますね。

    No title

    >「ローにお金払える人は2000人合格させますが、払えない人は50人しか枠のない試験を受けなさい」
    >このような不公平を堂々とまかり通してきた以上、いまさら公平もなにもないと思いますが。


    あなたの言っているのは立法論だろ。
    法改正をして受験資格を開放しろという。それはそれで理解できるよ。
    法科大学院がなくなっても、私は特に困らない、

    私の言っているのは現行制度を前提にした制度の運用の話。
    意図的に極端な出題をして平均点を下げ、受験生を三振させるようなやり方は、国民を罠に嵌めるのと変わらず、まともなやり方とは思えない。

    労働市場の需給調整を試験の合否判定で行うという発想がそもそも筋違いなんだよ。法改正か法科大学院の定数を大幅に削ることで対応すべき問題だと思う。

    No title

    > ~不公平になり、採り得ません

    「ローにお金払える人は2000人合格させますが、払えない人は50人しか枠のない試験を受けなさい」
    このような不公平を堂々とまかり通してきた以上、いまさら公平もなにもないと思いますが。

    No title

    >井上正仁が言っているのは、合格基準は客観的に決まっていて、政策目的で変更できないということです。

    「ロースクール制度を維持する」 目的のためだけに、ローを経由しない合格者枠は1500人→50人に減らされてますよ。

    No title

    井上正仁が言っているのは、合格基準は客観的に決まっていて、政策目的で変更できないということです。

    合格者を減らせという議論は分かりますが、やり方が問題です。

    世上言われる合格者を減らせという主張は、合格基準を上げろということです。

    受験回数に制限にある試験で、合格基準を変えることは他の年度との関係で不公平になり、採り得ません。
    この点は数年前に大問題になったことがあり、法務省も合格基準の操作というやり方で合格者を減らすということは二度としないと思われます。

    合格者を減らすというのは弁護士人口の需給調整の問題であって、試験の合否判定で考慮すべき要素ではありません。
    現行制度を変更するか、または法科大学院の定数削減という政策で解決すべき問題と思われます。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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