暴排条例がある社会の不安

     2011年10月1日の東京都と沖縄県での「暴力団排除条例」施行によって、全都道府県でこの条例が作られ、足並みをそろえる形になりましたが、依然として不安の声を耳にします。不安というのは、この条例が排除しようとしている暴力団への不安ではなく、この条例への不安です。

      警視庁のホームページには、「暴力団を恐れない」「暴力団に金を出さない」「暴力団を利用しない」「暴力団と交際しない」の4つを条例の基本理念として掲げています。暴力団を恐れないことを理念とする条例に、なぜ市民が恐れなければならないかといえば、それは既に多くの人が指摘しているように、大きく二つの不安要因です。

      一つは、暴力団とはかかわりたくなくても、一般市民がそれを見分けられるのかということ。意図に反してかかわっていることへの不安であり、果たして排除しきれるのかという不安でもあります。そして、もう一つは、その場合に意図に反して、この条例の対象にされるのではないか、ということです。知らなかったということが、知っていたことにされる、あるいは積極的な関与とされてしまう不安です。暴力団と暴力団員に「金を出してる」「利用している」「交際している」と、警察には恣意的に判断されてしまう恐れです。

     東京都暴排条例の2条4号には、「暴力団関係者」の定義として、「暴力団員又は暴力団若しくは暴力団員と密接な関係を有する者」と規定されていますが、その例として、前記警視庁ホームページのQ&Aには以下の5点が列挙されています。

     ① 暴力団又は暴力団員が実質的に経営を支配する法人等に所属する者
     ② 暴力団員を雇用している者
     ③ 暴力団又は暴力団員を不当に利用していると認められる者
     ④ 暴力団の維持、運営に協力し、又は関与していると認められる者
     ⑤ 暴力団又は暴力団員と社会的に非難されるべき関係を有していると認められる者

     事業者が、これを見分けるのは、実質的に困難であり、困難がゆえに、警察が恣意的に結び付けること対して、対処できない不安が伴うということになります。

     1992年に施行された暴力団対策法では、あくまで市民は「被害者」でした。しかし、暴力団排除条例には違う見方が入っています。前記暴対法でも根絶できない暴力団に対し、市民からの資金提供を断つことを目指すこの条例では、市民は必ずしも「被害者」ではなく、「協力者」「支援者」と位置づけるという見方です。

     この条例の最もおそろしい構図は、ここにあります。つまり、そもそも市民を「被害者」ではなく、「支援者」とすることで目的を達する条例であればこそ、より前記恣意的判断に流れる危険性もまた、高いということです。1992の暴対法のときには、警察の恣意的な運用への危険性や警察国家化への懸念から、反対する言論やデモ行動があったのに比べ、暴排条例ではそうしたものが起きる状況そのものがない、あるいは変わってしまっているという指摘もあります。

     こうした不安は、実は法曹界に近い事業関係者からも聞こえてきます。保釈金の立て替え事業をしている団体でも、支援事業そのものが、暴力団関係者をいち早く活動させることにつながったとする形で、暴力団支援事業として、ひっかけられないかということを不安視する見方があります。保釈請求自体には、相当数の割合で暴力団関係者が含まれているとされ、もちろん裁判所の保釈許可も出されているわけですが、やはり事業関係者が不安なのは前記この条例がはらむ、口実化の危険ともいえます。

     一方、この保釈事業には、今、日弁連が保険という形で、乗り出すことが、内部検討されています(「日弁連『保釈保証制度』」事業構想の不思議」「韓国『保釈保証保険制度』との距離感」)。あるいはこの観点から、裁判所や日弁連がこうした事業に関与することが、この暴排条例時代に、逆に社会的にも問題視される可能性がないわけではありません。韓国以外は、保釈保証金の立て替え事業は民間会社がやっており、弁護士会や政府・裁判所が関与し、しかも保険という形をとっているところはありません。

     前記したように「暴力団にも人権がある」などと主張された暴対法のころとは、日本社会は変わってきています。暴排条例が受け入れられている社会では、保釈をより当事者にとって、楽に社会に出すことだけの観点で、実質的にハードルを下げる保険事業というものが、逆に「支援者」として責任が問われかねない時代になってきているのです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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