大阪市職員アンケート問題と弁護士の「感性」

     大阪市の橋下徹市長が、業務命令として要請した組合活動や選挙活動などに関する職員アンケートについて、日弁連、弁護士会などからの批判が続出しています(日弁連会長声明大阪弁護士会会長声明東京弁護士会会長声明自由法曹団声明労働弁護団声明)。多くの弁護士が、驚きをもってブロクで取り上げています。

     この問題性については、これらの法律家の指摘をご覧になって頂ければ、ご理解頂けると思います。前記団体は、思想良心の自由、職員の政治活動の自由、団結権など憲法上の権利を侵害するとして、調査の即時中止やデータ廃棄を求めています。当然といっていい内容です。

     こうした一斉に出されている批判的な反応のなかで、自由人権協会の意見書だけが、前記団体が指摘しているような憲法上の問題点の前に、次のような表現を加えていました。

     「本件調査は、憲法を頂点とする法秩序を全く無視するものであり、このような本件調査に、弁護士資格を有する橋下徹・大阪市長が職員各位に対して、真実を正確に回答することを求めていること、また、本件調査が弁護士である野村修也・大阪市特別顧問のもとで実施されていることに、驚きを通り越して、言葉もない」

     これは、橋下市長と、野村特別顧問に対する、弁護士資格者・弁護士という観点からみた痛烈な批判です。よりによって弁護士である人間が関与して、こうした法律的に問題がある内容のものが出されているというのは、信じ難いということです。なぜか弁護士会の指摘には、そうした切り口のものがありませんが、能力以前に、確かに普通の弁護士の感性からすれば、こうした重大問題だらけのものが出てくることには、かなり違和感を覚えます。

     逆にそうであるだけに、弁護士のブロクでは少々違う見方もあります。

     「橋下氏は、このような既成団体の反論を折り込み済み。かえって、このような原則的な反論を逆手にとって、マスコミを活用して自己アピールをするというのが橋下氏の得意技のようです」
     「彼も弁護士だから、業務命令としてのアンケートが団結権侵害や思想良心の自由との関係で問題があることは当然に良く分かっている。それを承知の上で、『極論』をぶち上げる。すると、マスコミが大きく取り上げて、周囲の反発を利用して、より注目を集めて盛り上がる。このように敢えて政治的な波風をたてて、ここから彼は、『政治的な天才サーファー』の真骨頂を発揮する」
     「橋下氏は、極論をぶちあげておいて、その後に、結構、軌道修正をして落としどころで自己の要求を実現するというやり口です」(「夜明け前の独り言 弁護士 水口洋介」 )

      要するに、これは橋下徹という人物の手法であり、作戦だというのです。そうだとすれば、野村弁護士も同様に分かったうえで、橋下市長の作戦に協力しているということになります。

     報道よれば、野村弁護士は、組合側が不当労働行為に当たるとして大阪府労働委員会に救済を申し立てたことを受け、「法的な手続きが開始された以上、推移を見守るのが適当」と説明し、回答の開封、集計作業を凍結すると発表。しかし、橋下市長は「問題ないと思っているが、野村顧問が法律家として判断した。解明時期が延びるかもしれないが、踏み込んだ調査結果を楽しみにしている」とし、野村弁護士も、「凍結は残念だが、組合問題に関して多くの内部告発が届いており、今後も実態を解明したい」と述べています(2月17日付け産経新聞)。凍結とはいっても、特段反省もなければ、基本的には予定通り結果を得ることを断念する考えではありません。

     二つのことがいえると思います。一つは、仮に、橋下市長と野村弁護士が、前記水口弁護士が指摘するように、同市長の手法に乗っかり、あくまで法律的なことを分かったうえでやっていることだとしても、やはりそれはもはや弁護士がその使命を果たすために持っていなければならない感性ではないこと。もう一つは、こうした感性をあっさり捨て去るのみならず、ここでもまた高い支持を背景に、たとえ問題を指摘されようが、乗り越えられるというような、自信が彼らの中にあるかもしれないことです。

     前記団体が指摘している問題の重大性をみるとき、その彼らの姿とその見通しに、やはり違和感と恐ろしさを感じます。


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    業務命令アンケート

    2ちゃんねるに
    大阪市の『業務命令として要請した組合活動や選挙活動などに関する職員アンケート』が貼ってありました

    http://www.asaho.com/jpn/2012data/osaka-enquete20120220.pdf

    No title

    大阪は、今まで政治に無関心で、何事も「ノリ」で済ませる風潮があります。一種の思考停止だと思いますが、そういう風潮があることは頭においておく必要があります。

    大阪出身だからとても危惧感を感じます。

    手がつけられない

    橋下市長の手法というのは、今振り返ると、さかのぼって「懲戒請求のあおり行為」のころからはっきり打ち出されていたんだと思いますね。
    あの時は単なる一弁護士だったのでまだよかったですが、行政の長となった現在では始末が悪い。

    そしてこのやり口は、「豊富な法律知識を持った政治家の手法」と見るのが妥当なんでしょう。橋下市長は、府知事選に出馬し、政治家として生きることを決めた時点で、自分自身弁護士であることを「やめた」のだと私は理解しています。そして、たとえ法律的にどのような暴論、極論であっても、それを押し出すことで自分の主張に耳目が集まり、最後には自分の主張が通せるのであれば「何でもいい」のです。そこにはもはや弁護士としての感性は必要ない、むしろじゃまになるのでしょう。

    そして、
    >たとえ問題を指摘されようが、乗り越えられるというような自信が彼らの中にある
    >かもしれない
    のではなく、「乗り越えられると確信して」いますよ、あの人は。

    今回でいえば憲法上の権利の重大な侵害という、自分の主張の深刻な問題点を巧みに矮小化して世論誘導する橋下市長、その「お仲間」である松井大阪府知事、彼らにぶらさがる「維新の会」の連中と、厄介な相手を抱え込んでしまった大阪府民。
    もともと「おもろいやんけ」のノリで何でもいってしまう風土があり、かつてはそれでタコ芸人を知事にしてしまいました、この時は知事自身がセクハラで自滅してくれましたが、今度の市長はそんなに間抜けではありません。彼の目的がどこにあるのかよくわかりませんが、さっさと首長の座からおろしてしまわないと、大阪が日本一住みにくく「笑えない」街になるかもしれないと、隣県で心配しています。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
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    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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