弁護士会が強制加入であることの意味

     弁護士は、弁護士会に所属しなければ、仕事ができません。だから、前にも説明しましたように、弁護士である以上、東京に三つ、北海道に四つある以外、各府県にある弁護士会のどこかの会員で、かつ弁護士の全国組織である日本弁護士連合会の会員であり、またそうであることを義務づけられています。

     このことを市民の方は、意外と知りません。司法試験に合格して、資格を取得すれば、別に弁護士会に所属しなくても、開業できると思っている人も沢山います。

     弁護士会が強制加入であることは、弁護士の非違・非行の監視という意味合いがあります。弁護士会に与えられている強力な自治権の根幹である懲戒権、これを機能させるためにも、弁護士が全員、弁護士会に所属し、その監視が行き届くことが望ましい、ということです。会員が相互で監視する体制という言い方もできます。もちろん、このことは、市民社会にとっても、意味のあることだということになります。

     だが、この国の国民がそうした強制加入の意味合いを理解し、賛同しているのかは、疑問に思うことがあります。つまり、弁護士が弁護士会に所属することが、その品質保証であると、大衆がとらえている現実が、果たしてあるのか、ということです。

     例えば、強制加入でなければ、この国に弁護士会所属弁護士と、非所属弁護士が存在することになります。そうなれば、所属弁護士は、それがメリットと考えれば、「東京弁護士会所属弁護士」などと名刺や事務所の看板でうたうかもしれない。そして、大衆はやっぱり「会所属弁護士は安心ね」とその門をたたく。非所属は弁護士会の監督外なので、いわば品質保証マークがなく、大衆は自己責任でそれを選択することになる。ただし、弁護士会の品質保証が有効と大衆が認識していればの話で、場合によっては、非所属と変わらない扱いになるわけですが。

     強制加入を必要とする発想は、要するにこの国の弁護士のあり方として、こんなような形は望ましくない、という方向だろうと思います。弁護士会の自治は、権力の介入を受けないためのものであり、また、その自治を守るためには懲戒権が機能しなければならず、そのためには、強制加入によって、弁護士を監督して、玉石混交を許さない、というところでしょうか。

     ただ、あえていえば、先ほどのような、弁護士会所属・非所属の制度に必ずしも大衆がノーを出すかどうかは別の話です。弁護士という公的資格以上に、大衆は積極的に強制加入を求めるのでしょうか。今、弁護士会に弁護士が所属していることの意味合いを大衆がどう受け止めているか、ある意味、品質保証の有効度にかかっているという見方もできなくありません。 

     では、加入を強制されている個々の弁護士は、このこととどう向き合っているのでしょうか。

     以前も書きましたが、弁護士・会は一枚岩ではありません。弁護士にはいろいろな考え方を持っている人がいます(「弁護士会は一枚岩ではない」)。それでも、弁護士会としては、あたかも一枚岩のように対外的な発言や活動をしたりします。

     弁護士会の中では、よく「会内民主主義」という言葉が使われます。強制加入であればこそ、弁護士会としての意思決定は、より民主主義的でなければならない、という考えがそこにあります。

     ところが、そうした弁護士会のなかでも、その会長・副会長らでつくる執行部が、上から下への意思統一のために存在するのか、それこそ民主主義的に会員の声をくみ上げて、会の方針に反映させるために存在しているのか、分からなくなるときがあります。強制加入ということを考えれば、当然、後者が重視されてしかるべきですが、近年、特に前者の色彩が強まっているという会員の声を耳にします。

     とりわけ会内で意見の対立が続いている司法改革路線をめぐっては、この改革が始まって以来、日弁連執行部派と一般会員の意識がかい離し、その程度が拡大してきた、という指摘もあります(2009年中部弁護士会連合会定期大会「「適正な弁護士人口政策を求める決議」)。

     また、企業弁護士や渉外弁護士の中には、弁護士会への帰属意識が低い人もおり、強制加入について疑問視する見方もあるほか、経済的な困窮もあって強制加入を負担と感じる弁護士も出始めています。

     弁護士自治ともども、規制緩和の観点で、弁護士会の強制加入廃止を議論すべき、とする論調は、主に弁護士会の外にありますが、国民の目線と弁護士会内世論の動向次第では、いつでもそうした議論の流れが作られる状況にあると言ってもいいと思います。

     弁護士会の強制加入は、内と外に不安定要素を抱えているというべきかもしれません。

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    ありがとうございました

    コメントどうもありがとうございます。
     そうした見方が支配的になりつつあるのかもしれません。弁護士のなかでも、民事弁護士と刑事弁護士で、その今日的意義についての認識には格差もあるようです。弁護士自治の国民的基盤といったことが、弁護士会のなかでいわれますが、被告人の側に立って権力と対峙すると同時に、時に、多数派の市民・世論とも対峙することになる、刑事弁護においては、逆に自治を失うと同時に変質する危険もあります。
     仮に民事では通用するかもしれない不要論も、刑事では根本的な前提が違うのではないでしょうか。そこの問題は、残るように思います。
     今後ともよろしくお願いします。

    No title

    最近は日弁連が政治的に先祖がえり(左傾化)しているので、それを嫌って任意加入化を望む弁護士が増えているように思えます。

    また、アメリカでは単位会は州により強制だったり任意だったりしますが、全国的な組織であるABAは任意加入です。

    さらに、監督権限も弁護士会ではなく裁判所などの機関が持つのが諸外国では一般的です。このあたりも業界団体による懲戒権では内部の権力関係で内容が左右されるという批判もあるところです。

    特殊な弁護士自治がいつまでも持つかは、かなり疑わしいところです。

    任意加入にしても裁判所が監督すれば品質保証は問題ないですし、むしろ公正になってよいという考え方の方が合理性があるのではないでしょうか。

    市場による競争も今はあるし、評判が悪いところは競争で淘汰されていくと思いますよ。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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