韓国「保釈保証保険制度」との距離感

     2010年3月、日弁連法務研究財団の研究会メンバー10人が、韓国を訪問しました。目的は同国の保釈保証保険制度の視察です。2008年1月に日弁連が同国に勾留保釈と取り調べ可視化の調査団を派遣した際、韓国で保釈保証金の納付の代わりに、保険会社が発行する保釈保証保険証券を提出することで保釈が許可される制度が存在していることに注目。同財団の研究テーマとされ、研究会での検討が始まり、前記訪韓につながった経緯がありました。

     そして、この韓国での調査が、既にご紹介した日弁連が構想している「日本型保釈保証制度」(「日弁連『保釈保証制度』事業構想の不思議」)につながっています。そのため、これを取り上げた機関誌「自由と正義」2011年1月号の特集も、韓国のこの制度を、さながら日本での前記構想のモデル、あるいはヒントのような取り扱いをしています。

     しかし、韓国の制度が、果たしてそういう位置付けになるのか、という声も聞かれます。それは、韓国の制度の持っている特殊事情によるものです。決定的な違いは、この制度が韓国では国策として進められたということです。1987年ころから大法院(最高裁)が先頭に立って積極的に制度導入に動き、同年10月から被告人保釈、1997年からは被疑者保釈について、保証保険会社発給の保釈保証保険証券添付での保証書による運用がなされています。韓国のこの制度を扱うのはソウル保証保険株式会社一社で、韓国預金保険公社が99.2%を保有する国営の機関です。

     この制度導入の背景として、李東熹・韓国国立警察大学教授は前記「自由と正義」の特集のなかで、当時、高額の保釈保証金の借金などで家計が破綻する事例があり、資力がない者や庶民の経済負担減の社会的要請があった、と書いています。しかし、一方で国家的な経済事情から国費に対するコストカットを行う一環として、国策として勾留・拘留と管理費用削減という目的があった、との見方もあります。

     これだけみても日本の事情とは全く違います。以前にも書きましたが、保証書による代替を認めるか否かは、裁判所の自由裁量であり、日本の保釈実務ではほとんどが現金納付で、通常一審での保証書による保釈の割合は、1987年以降1%台、1998年は1.2%としています。つまり、明らかに日本の裁判所は、これに消極的です。国が推進するという前提が全くありません。日弁連が構想している保証機関は全国弁護士協同組合連合会という弁護士の共済組合であり、保険会社でもありません。

     そもそも国家がこうした保証保険による保釈の制度を推進するというのは、諸外国でも例がなく、逆に韓国のそうした特殊な事情があって成立したものとみることもできます。他の先進国が保釈について保険という形を導入しないのは、この保証を一般の保険会社が行うことで、被告人の保釈中の行動を担保することができるか、という根源的な疑問に突き当たるからだ、という人もいます。没取ということによる抑止力が間接的になったり、薄れるほどに、保証金の意味がなくなるという見方もあります。

     米国には保釈金立替会社(ベイルボンズ)が被告人に代わって保釈保証金を裁判所に積み、これが戻った時点で報酬として受領するという保釈金立替制度はあります。最大のリスクは被告人が出所した途端に逃亡してしまうことで、保釈金立替会社は一定期間に連れ戻せないと、保釈保証金を没取されます。そのため、追跡・逮捕のプロである「バウンティ・ハンター」(賞金稼ぎ)が登場するということになっているといいます。

     2009年には韓国の地方法院の保釈許可人数の6割以上が保証保険証券のみか同証券と現金納付になっている一方、勾留状の請求そのものが、9年間で半分以下に減少しているそうです。日弁連もどこか、こうした効果を構想の中に描き込み、「人質司法」打破とつなげている観がありますが、前提が違うもののモデル化は、当然、実現可能性もその効果も違うことは、考えておかなければなりません。


    「司法ウオッチ」会員特典として弁護士情報検索サービス「弁護士データバンク」を追加。ただいま新規登録先着100名様、3月まで会費無料キャンペーン実施中! http://www.shihouwatch.com/membership.html

    ただいま、「次期日弁連会長に求めるもの」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。
    http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信開始!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR