法曹の無神経な言葉づかい 

     ある法廷で若い裁判官が、相手方の老弁護士を呼ぶ時に「先生」と言っているのを見た一方当事者が、不安そうにこうつぶやいた。「どうも向こうの弁護士は裁判官の大学時代の恩師らしい。それじゃあ、この裁判は負ける」――これは、法曹界で聞いたことがある、一つの笑い話です。

     現実にあったことかどうかは、もちろん定かではありません。ただ、いかにもありそうな話ではあります。と同時に、法曹界でこれが笑い話として語られてきたとすれば、この世界の人間がお互いを「先生」と呼び合う慣習のおかしさをどこかで自覚していることを示しているようにもとれます。

     15年くらい前に、元裁判官で法学者の萩原金美氏が出版された本を読み返していたらば、偶然、この「笑い話」を引用しているのを見つけました(「裁判法の考え方」)。萩原氏はこの中で、「丁寧すぎるようにみえて実は無神経さを示している例」として、弁護士を「先生」と呼ぶ裁判官がいることを挙げ、これは公開の法廷では絶対に避けるべき、と指摘。この「笑い話」を引用しながら、「法曹仲間では笑話で済んでも素人は本気でそんな心配をするということに心を配る必要がある」としています。

     もちろん、訴訟当事者本人に「先生とよく相談して下さい」といった、依頼者に対する弁護士の立場を尊重する場合は別だともしています。

     実はこの話を含めて、この一文のなかで、萩原氏が取り上げているのは、法曹の言葉づかいの無神経さの問題です。ある民事法廷では、50代の裁判官が弁護士を「あんた」と呼び、「この点はどうなの、調べてきたの」といった調子で質問していたとしています。「あんた」は侮辱的な表現だし、「~なの」といった調子も、家族や親友同士以外では通常許されない、と。要するに敬語の基本用法すらわきまえていないことに同氏は呆れています。

     また、弁護士については、「裁判官に対して卑屈なくらいに馬鹿丁寧な敬語を使う弁護士ほど、相手方や証人に対して非礼な言葉を吐く」として、「聞き苦しい限り」と嘆いています。

     彼はこうした法曹の言葉づかいの無神経な者、敬語の用法がでたらめな者が存在するのは、「その職務の独立性から対人関係にあまり配慮する必要を感じないためであろうか」と、推測しています。だとすれば、これは法曹の独立性の負の部分であると同時に、これまでこうした法曹の言葉づかいが少なからず、その権威主義や、特権意識と結び付けた大衆の中のイメージ形成につながってきただろうことをうかがわせます。

     もちろん、同氏も言いますが、裁判そのものを考えるうえで、「理性的処理」ということから言葉は重要な要素であり、言葉の乱れそのものが、司法や裁判に対する大衆のイメージと信頼にかかわってくる可能性もあります。

     最近の裁判官や弁護士が、全体として当時と比べて、どうなのか、変わってきているのか、ということを判断できる材料が残念ながらありません。ただ、萩原氏は「この問題は法曹教育における一つのテーマたるを失わないのではなかろうか」としています。もし、かつての法曹教育がこうした法曹の出現を許していたとしたならば、新たな法曹養成のなかでは、こうしたテーマはどこが念頭に置き、あるいは担っているのか、いないのか、そのことは考えてみる必要があるように思います。


    「司法ウオッチ」会員特典として弁護士情報検索サービス「弁護士データバンク」を追加。ただいま新規登録先着100名様、3月まで会費無料キャンペーン実施中! http://www.shihouwatch.com/membership.html

    ただいま、「今、必要とされる弁護士」「次期日弁連会長に求めるもの」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。
    http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信開始!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR