弁護士にとっての老後と引退

     かなり前のことになりますか、自分の老後と介護をどう考えるのか、男性の弁護士に取材した日刊紙の女性記者の話を聞いたことがあります。「そのときのことを考えていますか」と聞いたところ、多くの弁護士の回答は、次のようなものだったそうです。

     「妻が面倒みてくれるはずだから」
     「誰にも迷惑かけずにぽっくり逝くから」

     要するにあまり考えていないということです。彼女は、こうした男性の考え方そのものに警鐘をならそうとする立場で、前記のような回答に「そううまくいくとは限らない」ということを言っていました。ただ、一般的に多くの男性があまりこうしたことを考えていない現実はあるものの、特にこうしたある意味、自信とも余裕ともいえる回答の多さに、やはり引退がない弁護士の「生涯現役」意識との関係も見出したようでした。

     かつて弁護士は老後がない、死ぬまで現役で頭を使うからボケもしない、などという言葉が、この世界でもよく聞かれました。定年がないと考えれば、体力・気力が続き、働けるうちはどこまでも働ける、ということになります。その点は、弁護士という仕事の魅力のようにいわれる時もありますが、半面、これは自らに引退を勧告しなければならないという厳しさを伴う仕事でもあるのです。

     回答数は少なかったですが、2005年に公表された第二東京弁護士会実施の会員アンケート結果では、働ける限界の理想年齢も引退年齢も、平均で70歳を想定していますが、理想については4割が「働ける限りは何歳までも」と回答していました。やはり現実は引退を意識している人が多いようです。

     ただ、状況が少し変わってきています。かつて老後について、およそ弁護士の口から「不安」の声を聞くことはなかった印象ですが、最近ではそうでもありません。以前から、退職金がない弁護士の仕事は老後の蓄えが肝心だということは話題になっても、やはりゆとりのある話が多かったのに対し、今の中堅弁護士からは、そうした弁護士の老後を過去のもののようにとらえる声が多く聞かれます。自分はそうはいかない、と。

     そもそも「生涯現役弁護士」という意識そのものが、弁護士の経済環境の激変から、揺らぎ出している観があります。「いつまで続けられるか分からない」「10年後は何をしているか」。そんな声を聞くたびに、この30年くらいで弁護士界は、本当に変わったと痛感します。前記「働けるならば何歳までも」という回答ですが、経済面、生活面で引退したくても引退できずに「現役」を続けざるを得ないということが既に現実化しているという分析もあり、自由業の「魅力」とは、違う意味で解釈しなければならなくなっているのが実情です。

     さらには、転職を視野に入れなければならない、という声まで聞きます。「資格は永久生活保証ではない」などと、弁護士の「心得違い」を責める論調もありますが、そんな意識はもはや多くの弁護士にはないと思います。

     若手弁護士の厳しい経済事情にスポットが当てられ、一般にもそのこと自体は、認知されてきているかもしれませんが、およそ弁護士の晩年の姿もまた変ってきていることは、まだ伝えられていないように感じます。

     さて、弁護士として、当然であり、またふさわしい引退の決断理由あるいは基準ともいえるものは、「依頼者の要望に十分こたえられなくなった」というものだろうと思います。前記経済的な事情の前に、これからの弁護士は、あるいはこれまで以上に、厳しい自覚や決断を求められるかもしれません。

     言葉が出なくなった噺家、メスを握れなくなった外科医がそうであるように、弁護士もまた、その使命と向き合って、自問自答のすえに「生涯現役」意識にピリオドを打ち、自ら引退を勧告しなければならないという、その厳しさもまた、社会には伝わっていないようです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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