日弁連「保釈保証制度」事業構想の不思議

     日弁連内で、保釈保証制度が検討されているという話があります。「お金なくても保釈支援 日弁連 秋にも保証制度」。こうした見出しで、朝日新聞が1月4日付け朝刊で報じているのをご覧になった方もいらっしゃるかと思います。

     機関誌「自由と正義」の2011年1月号に、日弁連内で考えられている「日本型保釈保証制度のスキーム案」というものが出ています。組合員である弁護士の業務支援等を行っている全国弁護士協同組合連合会(全弁協)が「保証機関」となり、裁判所が「被告人以外の者を差し出した保証書を以て保証金に代えること」を許した場合(刑事訴訟法94条3項)を前提に、保証書を発行する、というものです。被告人の弁護士、親族らからの申し込みを受けて、全弁協が審査したうえで、彼らと保証委託契約を結び、保証書を交付するとしています。5月の全弁協の総会に、この構想が諮られるようです。

     しかし、この構想には弁護士や関係者の中にも、首をかしげる人たちがいます。この事業には、実は二つの大きなハードルがあります。一つは、「保証機関」が提供する「保証書」による保釈を裁判所が一般的に認めるのか、ということです。保証書による代替を認めるか否かは、裁判所の自由裁量です。保釈実務ではほとんどが現金納付で、最近の統計は不明なものの、日弁連の前記記事によれば、通常一審での保証書による保釈の割合は、1987年以降1%台、1998年は1.2%としています。

     前記「自由と正義」には、検討した問題点として、この「刑訴法との関係」と「事業採算性」を挙げています。そこでも触れていますが、ここは裁判所に理解を得るための交渉次第という認識のようですし、前記朝日記事よれば、最高裁と交渉するということのようです。

     ただ、この事業構想には、ここで触れられていない、もう一つ根本的なハードルがあります。「保証機関」業務が、保険業法2条1項に規定する「保険業」または3条6項に規定する「保険証券業務」に該当しないのか、という点です。「保証機関」は刑事被告人の逃亡が生じた場合、保釈保証金相当額を裁判所に対して納付することになり、その対価として契約者から手数料を受領するわけですから、保険の提供ということになる可能性があります。端的にいえば、保険業法に従って認可を取得し業務を営まねば違法行為に当たるという点です。もし、全弁協が認可を受けないで保険を営むことができた場合、どの会社でも同様の行為ができるということになりかねません。

     同項には免許が必要な「保険業法」から外される「除外事由」が規定されていますが、ここでも全弁協に該当するものは見当たりません。労働組合や国家公務員共済組合などが列挙されていますが(同2条1項2号)、弁護士の共済組合が当てはまるところはありません。そもそも「保証機関」の事業が「保険の提供」とみた場合、業務の提供者は弁護士組合員に特定されず、実質は不特定多数の刑事被告人親族となるので、相手方が1000人以下である場合(同項3号)という「除外事由」にも当てはまりません。

     弁護士のなかからも聞こえてくる前記疑問の声が言うのは、果たして日弁連が、こうした問題を詳細に検討し、実現可能性を考えているのかどうかという点です。保険業法の問題は、少なくとも「事業採算性」以前に、クリアしなればならないハードルです。どうもそこが見えないまま、構想が先行している印象があります。

     前記「自由と正義」に掲載されている論稿には、この構想の背景として、国選事件での保釈率が低い原因が資力に乏しく保釈保証金が用意できないことが挙げられ、「『人質司法』打破に向けて一歩」というような表現も出てきます。しかし、「人質司法」の打破の方策として、こうした形で初めに保釈保証制度の設立を行うことにも、違和感があります。

     いうまでもなく、「人質司法」とは、身柄の長期拘束によって、自白や警察や検察の意に沿った供述を得る形になっている現行刑事司法制度の問題を指摘した言葉ですが、保釈保証金が用意できないことだけがネックになっている人の問題とは必ずしも直結せず、保釈保証保険の商品化(保釈保証制度の設立)とは直接は関係ないといってもいいと思います。

     また保釈保証金の立て替えを行っている民間団体として、日本保釈支援協会がありますが、この協会の設立以降、資力の乏しい被告人は同団体から保釈保証金を工面できるようになり、実際保釈率は改善傾向にあることから、「資力に乏しく保釈保証金が用意できない」という問題も徐々にクリアされてきています。

     日弁連が進めようとしている全弁協を受け皿として行う保釈保証制度には、「保険業法」に抵触しているという可能性と、そうした問題をクリアにしないまま発行する保証書を、果たして最高裁の事務総局が全国の裁判所に対して、受け付けを認める旨の通達を出すのかという、大きな問題が横たわっていることになります。

     それだけに、朝日新聞の記事はアドバルーンのようにも思えますが、報じられていないこの現実を考えると、この構想には、やはり首をかしげたくなるものがあります。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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