日弁連の孤立化を目論む論調

     2010年3月30日に、国松孝次・警察庁長官銃撃事件の時効成立を受けた警視庁公安部長の会見が、話題になったのは、ご記憶だと思います。それは、実に驚くべき会見でした。何せ日本の捜査機関が、刑事責任を追及できる証拠はなかったが、犯行はオウム真理教グループが組織的に敢行したテロだった、と断定したのですから、言葉を失います。

     この国は、いつから証拠がなくても、犯人と断定していいことになったのでしょうか。それとも、やはりこの国の警察は、証拠がなくても、裁判によらなくても、当たり前に「有罪」の烙印を押す組織ということでしょうか。

     「法治国家としておかしい」
     「敗北は率直に認めよ」

     当然、翌日の大新聞も社説などで、一斉にこの会見を批判しました。時効に至ったことへの理由や反省、今後の検証について語るべきところを、なぜ、証拠がない犯人断定だったのかと。「負け犬の遠吠え」「恥の上塗り」と評する人もいましたが、当然です。

     当時、テレビコメンテーターらの分析では、こうした対応を警察が行ったのは、一つには警察トップ襲撃事件未解決に対する捜査当局の体面、もう一つは、依然「オウム」が危険という社会へのアピールとされていました。

     この会見の翌日から一ヵ月間、警視庁は犯行を断定する内容の「捜査結果概要」を公表。これについて、同庁は「人権について配慮したが公益性が勝ると判断した」と説明しました。しかし、一般人が襲われた事件だったならば、こうした対応は、おそらく思いもしないであろうことを考えれば、警察庁トップの方の「特別な人権に配慮し、組織としての体面が勝る」との判断が働いたととる方が自然です。

     さて、日弁連はこの問題でオウムの宗教的な後継組織から出されていた人権救済申し立てを受けて、1月26日付けで警視総監に対する警告書を発表しました。内容は今回の件について、捜査機関である警視庁が、公訴提起さえされていない者や団体を犯罪者と断定し、公表する行為は憲法31条及び無罪推定原則に反し、犯人と断定された信者グループ、ひいては宗教的継承団体名誉権を侵害したとし、記者会見の発表内容の撤回と、こうした違法行為を二度としないよう求めるものでした。これまた、当然といえば、当然の内容です。

     ところが、これを批判的に取り上げる社会時評を携帯ニュースで目にしました(The News 10個の目「警察庁長官狙撃犯はオウムだ」)。

     「日弁連は何か有ると弱者救済、無実の罪を晴らすとしてしゃしゃり出るが、勘違いも甚だしい。国家権力の横暴による無実の被害者の人権を守る使命は崇高だが、最近は明白な犯罪者に関わらず、真実を曲げて只管依頼者の無罪や罪の軽減に邁進するのは偽善者だ」
     「島田裕巳、中沢新一等の宗教学者が煽てあげ、オウムが事件の主犯であることが明白になっても、破防法適用に朝日新聞等のマスコミや旧社会党、共産党が大反対し、骨抜きされた団体規制法で対処した経緯がある。だから今もオウムは健在だ。オウムは、本気で国家転覆を図ったカルト組織であり、破防法の適用は今でもすべきだ」
     「『推定無罪』は弱者のための判断基準だ。オウムは社会的脅威であり、殺された村井秀夫は1千億円の資金が有ると言っていた。日弁連は、本当の弱者の為に国家権力と戦え」

     記事はオウムの犯罪性を並べ立て、前記のごとく要するにオウムは弱者でなく、守るべき人権もなければ、「推定無罪」もない、それを守ろうとする日弁連はどうかしている、というわけです。中段の引用部分は、多分に捜査当局の言いたいことを代弁されているようでもあります。

     当時の大マスコミもこぞって批判した前記警視庁の対応をみれば、この主張のおかしさはいうまでもないことですが、それでもこの論調こそが、日弁連・弁護士を誤解に基づいて社会から孤立させようとする典型的な論調ということができます。警視庁の対応のおかしさをいうマスコミ論調にうなずいていた大衆の批判の矛先を、反社会的な「脅威」を対峙させることで、人権や法を飛び越えて、そちらの側で筋を通そうとしている弁護士に向けさせようとするものです。

     そして、時に権力や多数派の国民と対峙しても、人権の擁護に例外なく筋を通そうとする、とする弁護士の活動を抑え込む社会こそ、前記したような特別な人間のための「特別な人権」が配慮される社会につながっているはずです。

     「偽善者」「本当の弱者の為に」と、国民の賛同を求めるこうした論調に対して、筋を通す弁護士の活動が抑圧される社会こそが大衆の脅威につながることは何度でも繰り返し訴えていくべきことだと思います。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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