「公益性」と「競争」という仕掛け

     2003年ころだったと思いますが、最初に第二東京弁護士会が会員の「公益活動」義務化に向け、同活動を行わなかった会員から金銭を徴収するという方向を決めたと聞いたときには、正直、耳を疑いました。

     以前にも書きましたが、東京の三弁護士会と大阪弁護士会が、会員への公益活動を義務づけ、会によって若干具体的な位置付けが異なるものの、いずれの会も、それを行わなかった会員に「負担金」(東京、第一東京、大阪が年5万円、第二東京が10時間に満たなかった不足分1時間5千円)を課しています(「弁護士とボランティアの厄介な関係」) 。

     なぜ、耳を疑ったかはいうまでもありませんが、金銭の徴収は、この場合、どんな名称をつけても罰金と同じであり、罰則で公益活動を強制するものに思えたからです。もちろん、この活動について、自発性というものは、弁護士会として問わないということにもなります。「会員の参加を促すため」としても、自主的な精神を重んじて、根気よく勧誘する姿勢では、初めからなかったように思います。

     当時、この弁護士会の姿勢に、嫌な感じがしたのには、さらに理由がありました。この方針には、「教典」があったからです。当時、既に「改革」のバイブルとしての扱いを受けていた司法制度改革審議会最終意見書です。そこには、こんな文面があります。

     「弁護士は、『信頼しうる正義の担い手』として、通常の職務活動を超え、『公共性の空間』において正義の実現に責任を負うという社会的責任(公益性)をも自覚すべきである」
     「公益活動を弁護士の義務として位置付けるべきである」

     その具体的な中身として、意見書は国民の法的サービスへのアクセスの保障、公務への就任、後継者養成への関与等とともに、いわゆる「プロボノ」活動を例示しています。同活動について、「無償奉仕活動」の意であるとし、社会的弱者の権利擁護活動なども含まれる、との見方を示しています。

     弁護士による社会的弱者の権利擁護活動を、プロボノに含めるという見方には、当然、弁護士の中に異論もありました。それが、弁護士の使命に基づき、それまでも実践してきた弁護士・会の本来業務という意識もあったからです。ここで新たに「無償奉仕活動」として規定されるものではない、と考えても当然です。しかし、むしろここで注目されたのは、一般的な「公益性」というものを、あたかも弁護士の「新使命」として掲げ、弁護士そのものを個人よりも、国家・社会に奉仕する存在へ転換するものとして、再定義しているような趣があったことです。

     嫌な感じがしたのは、弁護士会の中で現れた「公益活動」義務化が、まさに弁護士自身が、忠実なるバイブルの実践者として、主体的な意思に基づく奉仕活動の枠を超え、この「新使命」をいち早く取り入れる姿勢を示したように見えたからです。いわば、バイブルへの忠誠の証のように。

     一方で、司法審意見書は、法曹人口の激増政策とともに、弁護士の広告のさらなる充実化や国際化への対応などを掲げ、当然、弁護士間のビジネス化と競争につながる政策を打ち出しています。それだけに、公共性への自覚を強調する意見書の文脈は、あたかも「金儲け」本意に走りかねない弁護士へ、自戒と自覚を促すような響きを持っていますし、現にある意味、それをバランスとして、受け止めようとした弁護士の方々もいたようです。

     ただ、そこに一方で、弁護士を経済的に追い詰めながら、弁護士・会のこれまでの権力対抗性、時に国家にも多数派市民にも対峙して掲げられてきた弁護士法1条をぼやかし、弁護士の位置取りを、ある意味より分かりにくくさせる、このバイブルの巧妙な仕掛けがあるようにも思えるのです。

     あるいは多くの弁護士が善意で受け入れた形が、この国の弁護士を変質させる方向に向かわせている、この「改革」の姿が、ここにもあるというべきです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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