「新しい水夫」への期待と責任

     次期日弁連会長選挙に出馬している候補者の一人が、有権者である弁護士会員に送ったFAXにこんな一文が書かれていました。

     「希望~若手を信じ全力支援~ベテランの水夫は多くの水路を知っている。しかし、新しい水路を発見するのは、新しい水夫だ!」

     既に書きましたように、日弁連の中で大きな比重を占め出している若手の票は、選挙の勝敗に大きな影響を与えるものだけに、各候補とも若手へのアピールは当然、力が入るところでもあるわけですが、この一文は一体何を訴えかけているのでしょうか。

     弁護士の生き方や可能性について、経験豊かな弁護士はよく分かっているが、独創的な新たな弁護士の道は、新しい発想、新しい感性が切り拓いていくのだ――といったくらいが、好意的な解釈でしょうか。

     ただ、「希望~若手を信じ」という下りが、どこか違和感を持ちます。若手の可能性を信じるか信じないかとか、信じるからこそ、そこに希望を見い出して、われわれベテランは支援するのだ、といった感じが、先輩法曹として現在の状況を作った責任者側の発言としてみると、果たしてそういう問題なのだろうかという気持ちにもなるからです。もっとも、ご本人が責任があるという認識かどうかは別ですが。

     猪野亨弁護士は、ブログで、この一文について、こう厳しく指摘しています。

     「若手のみなさん、要は自分の道は自分で見つけて下さい、ということだそうです。自分で、その『新しい水路』とやらにいってみたらどうかなと思いますが、自分は、日弁連会長になりたいだけなんでしょう。一見、自分の進路は自分は見つけようみたいな『チャレンジ精神』のようなフレーズを用いていますが、その内実に具体性はありません」

     やはり、前記一文は、職域の拡大は自分でおやりなさい、と言っているようにとれます。なぜ、こういうことになっているかといえば、現在ベテランの方々が、過去に「新しい水路」は沢山ある、という見通しを立てたことに始まっていると思いますが、いつのまにか「それを知っているのは君たちだ」ということになっているようです。

     さて、冒頭のフレーズを見て、おそらく現在40代後半より上の世代の方の中には、これがある曲の歌詞をもじったものではないか、と思われた方もいたと思います。吉田拓郎が1970年に出した「イメージの詩」です。

     「古い船には新しい水夫が 
      乗り込んでゆくだろう
      古い船を今動かせるのは
      古い水夫じゃないだろう
      何故なら古い船も新しい船のように
      新しい海へ出る
      古い水夫は知っているのさ
      新しい海のこわさを」

     果たしてこの候補者が、本当にこの歌詞が頭にあって、前記一文が作られたかどうかは分かりませんが、拓郎世代ともいえる彼だけに、そういう想像はできなくはありません。

     「古い船」である日弁連に「新しい水夫」として若手が乗り込んでくる。それを動かせるのは彼らで、日弁連も「新しい海」に乗り出さなければならない。やはり、「新しい水路」を探すのは、「新しい水夫」ということになりそうです。

     しかし、「イメージの詩」に沿わせてみれば、「古い水夫」は「新しい海のこわさ」を知っているということになります。「新しい水路」たる弁護士の新しい生き方や可能性の怖さ、危うさをベテランは知っている、知っているからこそ、それを知らない若手がチャレンジできるとも、知っているからこそ「お前らが行け」といっているとも、とれなくありません。「古い船」のリーダーには、「古い水夫」でも大丈夫ということのようですが。

     「司法改革世代」ともいうべき、この候補者世代の発言は、やはりいまの状況へ日弁連と弁護士を牽引してきた責任への自覚という点が、一番気になります。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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