弁護士のストレス

     弁護士の仕事は、相当なストレスを抱える仕事です。少なくとも、この仕事にまともに取り組んでいる方ほど、そういうことになる仕事だと思います。紛争を抱えた依頼者と向き合い、その期待を背負いますが、弁護士本人の努力とは裏腹に案件によってはそれにこたえることはできず、また、必ずしも依頼者がそれを全面的に理解してくれるとは限りません。

     紛争には、相手がいますから、そちらからの攻撃の矢面にも立たなくてはなりません。もちろん、相手当事者が敵側弁護士の職責を必ずしも理解するわけではありませんから、敵対する相手と同一、あるいはそれに知恵をかす存在としてより敵意を抱かれることもあります。相手から恨まれるのは当然、満足いく解決、落とし所でなければ依頼者から恨まれるのもまた当然という立場です。

     刑事弁護では、被告人のために、組織的に対応できる国家権力と対峙しなければならず、さらに時には、社会から孤立する被告人とともに、風当たりが厳しい中での弁護活動も強いられます。

     丹念に事実をつかみ、法律的な主張を組み立てる作業も、訓練されてきているとはいえ、生命・身体・財産がかかわる手続きに向き合うのですから、相当な緊張感のなかで臨まなければ、取り返しのつかない損害を生んでしまいます。

     そして、こうした業務の性格自体がはらむストレスに、最近は経済的なストレスが加わっています。これまでも書いてきたように、弁護士と一口にいっても、企業系や渉外系の大事務所から街(町)弁といわれる、町医者的に市民の紛争を手掛ける中小事務所など、さまざまな形態で働く人々がいるわけで、その意味では、経済的に抱えるものも個々の状況によりますが、全体的に弁護士の経済事情は悪化しつつあることは明らかで、深刻さも増していることは事実です。

     雇用されている立場では、独立の見通しも立たないまま、いつまでしがみついていられるかを考え、経営する立場では給与支払いなど事務所運営費を考えて、それぞれ胃を痛めている弁護士たちが沢山いるようです。激増政策が続けば、さらにその厳しさは増すという見通しもあります。

     こうした実態を裏付ける日弁連の調査結果が、昨年発表されています。昨年5~6月にかけて全会員対象に行われた「ワークライフバランスに関するアンケート」です。回答率は2%と低く、回答620通でしたが、それによると、弁護士業務を遂行するに当たって、心理的な不安が原因と思われる「ストレス症状」が出たことはあるかという質問に対しては、現在あるとの回答が50%、過去にあったとの回答が15%で計65%が現在もしくは過去にストレス症状を経験している結果が出ています。

     ストレス症状経験者は男性の60%に対し、女性が71%と上回り、ポジション的には経営者弁護士が69%、1人事務所が64%、勤務弁護士が60%と、経営者弁護士がもっともストレス症状が高いことも示されています。ストレス症状の具体的内容は複数回答可で、ストレス症状経験回答379件のうち「疲れている」239件と最多で全体の6割が睡眠や休日等の休息によっても疲れが抜けていないと回答。以下、「イライラしている」154件、「不安だ」159件、「憂鬱だ」116件、「やる気が出ない」129件、「弁護士を辞めたいと感じる」125件など。

     ストレス症状の原因については,「事件処理や業務負担の重さ」が最多であり,以下、「人間関係」「経営や収入に対する不安」の3つが上位を占め、「人間関係」の中身も「依頼者」「相手」「事務所内」と続いています。

     そしてこの調査で最もショッキングな結果は、ストレス症状ありと回答した人の実に15%が「自殺を考えたことがある」と答えていることです。性別でみると男性は「あった」11%,「以前はあった」4%であるのに対し、女性は「あった」が14%、「以前はあった」が2%。一般の統計で男性の方が女性より自殺率が高いと考えられていることから、調査報告は「この結果は特徴的」と評しています。「あった」との回答が一番多かったのは経営者弁護士でした。

     あるいはこの状況に対しても、「今、どんな仕事でもみんなストレスを抱えている」「どの経営者も悩み抜いている」等々、弁護士を特別扱いするな的な論調を被せてくる人もいるかもしれません。しかし、前記したような弁護士という仕事が宿命的に背負うことになる状況に、さらに重いストレスを抱えた弁護士たちが向き合うことになる現実の先に、この社会や市民にとって何か良いことがあるのかということは、何度でも問い返していいように思います。


    「司法ウオッチ」会員特典として弁護士情報検索サービス「弁護士データバンク」を追加。ただいま新規登録先着100名様、3月まで会費無料キャンペーン実施中! http://www.shihouwatch.com/membership.html

    ただいま、「次期日弁連会長に求めるもの」についてもご意見募集中!
    投稿サイト「司法ウオッチ」では皆様の意見を募集しています。是非、ご参加下さい。
    http://www.shihouwatch.com/

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信開始!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR