司法審路線が問われる日弁連会長選挙

     日弁連・弁護士会の今回の「改革」を本格的に問い直すということであれば、それは取りも直さず、これまで「バイブル」として扱われてきた2001年の司法制度改革審議会の意見書をどう位置付けるのか、具体的にはいえば、この路線と決別するのかどうかという問題は避けて通れないように思います。

     いうまでもなく、今、法曹人口問題にしても、法科大学院にしても、今、「改革」の失敗としていわれているものが、この「バイブル」に基づくものだからです。そして、本格的に問い直すという作業が、単にそこに書かれた政策の修正や取捨では収まりようがないのは、そこに列挙されている政策から深く根を張っている、この「改革」の思想がそこにあるから、といってもいいでしょう。

     「歴代の日弁連執行部は、司法制度改革審議会(司法審)の意見書を高く評価してきましたが、今度こそ司法審路線との全面対決を避けない人に会長になってもらいたいと思います」

     「司法ウオッチ」の「司法ご意見板」での、「次期日弁連会長に求めること」という設問に対して、吉田孝夫弁護士は、こう注文を付けています。「全面対決」しかない、というのが、まさに前記したような司法審意見書に対する、当然の結論ということになります。具体的に吉田弁護士は、こう続けます。

     「司法審の最終意見書には、1 陪審制のイミテーションである裁判員制度も(102頁)、2 『市場原理』に基づいて弁護士を激増させることも(58頁)、3 法科大学院を法曹要請の中核に据え、それを法曹人口の激増と関連させることも(62頁)、4 司法修習生の給費制を廃止又は貸与制にするということも(75頁)、5 法律扶助や国選弁護の運営主体を変更し、国の監督を強化することも(30頁)、明記され、反面、『法曹一元』の文字は消え、官僚裁判官制度は堅持され、判検交流に根拠が与えられました(92頁、93頁)」
     「上記2、3、4については、日弁連の執行部も若干動揺を見せていますが、1と5を推進する姿勢は揺るいでいませんし、裁判所・検察庁に対しては何も言えないようです」

     この視点に立つのであれば、今回の日弁連会長選挙の候補者も、その前記「全面対決」を実現できるかどうかの期待度によって、はっきりと色分けできるかもしません。既に、立候補された今回の候補者の声のなかには、司法審路線そのままととれる方もいらっしゃいます。地上に伸びている政策に手を入れても、その地下に根を張る思想は、まさに司法審意見書のそれであるところがミソです。そこをよく有権者会員は見極めなければなりません。

     ただ、あえてこの「改革」10年(あるいは20年)の弁護士と、それ以前の弁護士とを比べて、最も違う印象を持つのは、ある意味、こうしたテーマに対する受け止め方かもしれません。主張すべき理念的な正当性よりも、ともすれば、情勢論に傾斜した「現実論」ともいえるものを優先させようとする意識です。

     「社会に受け止められない」として、時に「世論」とされるものから離反するのを恐れるような姿勢でもあります。それこそ、「対決」姿勢を打ち出す候補には、「実際、当選したならば、困るのは当のご本人ではないか」といった、ささやきが弁護士間で聞かれたりもしました。そして、現にそうした意味で、かつて当選を果たしたのちに、結果的に「改革」反対派・慎重派の期待を大きく裏切ることになった会長もいました。

     しかし、これも、あくまでこれまでの話です。状況は大きく変わり、会員の意識も変わりつつあります。冒頭の吉田弁護士の指摘に返れば、なぜ、「バイブル」を「高く評価」し「全面対決」を避ける執行部を選択してきてしまったのか、そしてそこにあった「現実論」が果たして今、いい結果をもたらしているのか、日弁連の主張をより分かりにくくさせてきてしまったのではないか、ということに、個々の会員が、思いを致すべき時期が来たというべきかもしれません。

     まさに「今度こそ」という結果につなげなければならない選挙になるはずです。


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    No title

    解説ありがとうございました。いままで選挙には無関心で、また、幸か不幸か派閥というのもにも一切、縁がありませんでしたので、いまいちこういった情報には疎かったのですが、今回は、少しまじめに考えて投票したいと思っています。

    No title

     弁護士会内の一般的な認識として、今回の選挙でいえば、尾崎純理候補と山岸憲司候補を「旧主流派」としています。「旧」というのは、いうまでもなく、前回選挙で宇都宮健児・現会長が旧主流派の候補を破り、多数票をとって「政権」をとっているからですが、では宇都宮候補の陣営を現「主流派」というかといえば、そういう表現の仕方はあまり耳にしません。日弁連の「改革」路線を牽引してきた、従来の日弁連執行部を支えてきた、流れをくむ方々を「旧主流派」といっていることになるかと思います。

    No title

    具体的な候補者の色がよく分かっていないのですが、属にいう、主流派ってのは誰なんですか

    No title

    私は若干異なる意見を持っています。

    2,3,4の法曹養成問題及びこれとリンクしうる法曹人口問題の失敗は明らかだと思いますから、ここに対しては過去の反省が必要だと思います。

    これに対して、1の裁判員制度は(私は反対派ではありますが)、2,3,4とは別の次元の問題ですからこれを峻別しなければなりません。

    5の法テラス問題も同様で、2,3,4とは別の次元の問題で、ここで全面対決をすれば、法律扶助分野を全て司法書士に持っていかれかねません。決して、監督を積極推進する者ではありませんが、最低限、ソフトランディングが必要な分野です。

    要は、これまでの日弁連は分かりやすすぎるのですよ。司法改革に全て賛成か(旧執行部派)、反対か(高山派)という色分けしかなく、2,3,4を緊急の課題として捉え、1は別の次元の課題として捉え、5は職域維持と弁護士自治の独立の調和を図るという、いうなればしたたかな戦略がないことが問題なのです。

     宇都宮執行部になる以前、高山派が票を伸ばしていたのは2,3,4がひどすぎたからであり、なかなか高山派が政権を取れなかったのは5まで全面対決すれば弁護士会はもっと早く崩壊するのではという懸念があったからです。

     はっきりいいますが、国民が弁護士自治の維持に協力してくれると言うのは弁護士の驕りですらあると思います。弁護士に助けられた人たちが協力してくれることを否定しませんが、弁護士の感覚では基本中の基本、給費制の維持ですらこれほどの努力でやっとこの成果ではありませんか。司法がこの国に必要なことも、弁護士制度が必要なことも間違えないのですから、司法改革路線に決別すると同時に、どこに問題があったのかを検証し、逆によかった部分はあるのかも含めて検証すべきです。

     もう一言書きますが、現在の状況は弁護士は多すぎます。しかし、私が弁護士になった平成9年ころの弁護士は明らかに不足していました。つまり、需要も見ないで激増させたのが問題なのであり、増やしたことは間違ってはいないのです。と言うようなバランス感覚に飛んだ人に会長になって欲しいです。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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