裁判員「100日裁判」報道の真意

     首都圏で発生した連続不審死事件で殺人罪に問われた被告人の裁判員裁判が、過去最長の100日間になることが、話題なっています。また、辞退者が続出している状況も報じられています。裁判所は330人の裁判員候補者を選び、このうち249人に呼出状を通知、うち61人が出頭し、さらに28人が辞退を申し出、27人が認められ、裁判所は残った34人から6人の裁判員と補充裁判員6人の12人を選んだ、ということのようです。

     こうした事実をかなり大きな扱いで伝える新聞の報道は、どれも参加する裁判員の負担について言及しています。むしろ、「100日」の拘束の負担がゆえに、そこにニュース性を見つけて大きく扱っているようです。ただ、この記事はどう読むべきなのかについては、少々考えさせられます。

     端的に言えば、だからどうした、という話です。当然、裁判ですから、事案によっては、長期化は予想されます。それをいまさら、国民の負担という観点から、注目するというのは、裁判員制度ではこういう事態もあり得るから覚悟せよ、ということなのか、こうした過大負担は、この制度の課題でなんとかしなければならない、ということなのか、そこが読者にどう伝えようとしているのか、ということです。

     前者だとすれば、それはいまさら言うことではありません。そうした過大負担を投げかけて、この制度の賛否はもっと前に国民に問われていなければならないことです。それをあえて、見切り発車と順調スタートを作るために、後回しにしたり、強調してこなかったとすれば、そちらの方が問題です。

     ただ、後者だとすれば、さらに問題だというべきです。いうまでもないことですが、裁判というものの目的からいえば、真実発見に必要なプロセスは、裁判員の負担よりも明らかに優先順位が上だからです。裁判員制度をめぐるこれまでの論調でも、まず、国民の参加がまるで裁判の目的と化しているのではいか、と疑いたくなるほど、「裁く側」の話ばかりが目立ち、「裁かれる側」の話が二の次になってきたようにもとれます。それだけに、今回のような、裁判としては当然の事態までが、そうした観点で取り上げられる可能性もないとはいえません。

     今のところ、はっきりと課題として打ち上げた報道はありません。ただ、今回の多くの辞退者を生んでいる件の報道で、登場する識者のコメントは微妙です。

      「週3~4回の過密日程で、裁判官でも負担が大きい。繁忙期の年度末をまたぐため、裁判員の人選が偏っている可能性もある。判決が国民各層の意見を反映したものになるか疑問だ」(西野喜一・新潟大大学院教授、1月6日、朝日新聞朝刊)
      「3カ月以上拘束される裁判だが、母数を広げて選任しているので裁判員の構成に偏りはないとみられる」「裁判員の負担を考慮し、検察、弁護側双方が主張をいかに分かりやすく伝えられるかが課題となる」(村岡啓一・一橋大法科大学院教授、1月6日、産経新聞朝刊)

     前者についていえば、裁判員制度批判で論陣を張ってきた西野教授のコメントを登場させたことをもってして、推進派・朝日が、こうした制度の問題点を直視し、制度批判に転じたとは、さすがに読むことはできないでしょう。むしろ、この記事の文脈では、必ずしも西野教授の本意とは違う形の、朝日なりの課題提示ということのように読めてしまいます。

     一方、村岡教授は、正面からの肯定論に立ったご意見と言うべきです。西野教授が指摘している人選の偏りも、想定内の批判と受け止めてのことか、「母数」の大きさで大丈夫だとし、お決まりの裁判員への負担配慮と分かりやすさを課題として挙げていらっしゃいます。

      「100日裁判」という事態を前に、裁判員の負担を中心に制度存続を考える新聞論調は、それが無理ということだけではなく、どんどん本来の裁判の目的から離れていく危険をはらんでいるように思えます。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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