「地産地消」を描き込んだ法科大学院

     法科大学院の設置の意義に絡んだ話のなかで、時々、「地産地消」という言葉が使われるときがあります(「ある地方法科大学院関係者が描いた展望とニーズ」)。いかにも、ぴったりの例えがないときの、無理に当てはめたような、印象を持ってしまう例え方のように思えます。

     何をいわんとしているのかは、もちろん分かります。各地に設置された法科大学院が、その地域に根差した弁護士を輩出するという形です。しかしいうまでもなく、「地産地消」とは、地域生産地域消費の略語ですから、百歩譲って「地産」はいいとしても、弁護士の「地消」というのは、なんだか妙な感じがしてしまいます。

     ただ、この形というのは、ある種各地に法科大学院が出きることに被せられた期待感ではありました。根差した弁護士を輩出するというよりも、どちらかというと根を下ろしてもらいたい、根を下ろしてもらえるんではなかろうかといった、いわばこの制度を推進する側の願望か背負わされた話だったように思います。弁護士会サイドからすれば、そこに弁護士偏在という課題の解消にも一役といった描き方もありました。

     しかし、残念ながら、願望は願望ながら、現実はそうはなっていません。多くの志望者は都会の法科大学院を目指しています。偏在解消に法科大学院が貢献したという話はあまり聞こえてきません。

     では、「破綻」「失敗」がいわれている法科大学院の現在にあって、この「願望」がどうなっているかといえば、今、歴とした法科大学院の存在意義として語られているという不思議光景を目にします。

     12月14日の朝日新聞朝刊、静岡地域面に掲載された田中克志・静岡大学法科大学院長のインダビュー記事の中でも、同院長がこう語るところが出てきます。

     「うちを修了した司法試験合格者の多くは県内で弁護士になっています。地域の特性をよく知る法律家を育てる意味は大きい。また教育環境整備や人材育成という点から見ても地元に法科大学院があるというのは重要だと思っています」

     静岡では前記「地産地消」と称された形が実現しているということでしょうか。もちろん、そうだとしても、それを全国の法科大学院とその地域事情にあてはめて、「願望」を存在意義にできるのかは疑問ですが、それは別としても、ある弁護士のブログが、この「うちを修了した司法試験合格者の多くは県内」という下りに疑問を投げかけています。

     「この点、その理由を『地域の特性をよく知る』とあります。しかし、『地域の特性をよく知る』のに、法科大学院がなぜ有効なのかが理解できません。LSに県外から入学する人だっているだろうし、そういう人が合格して県外で修習することだってある。するとそのLSのある地域にいるのはたったの2~3年です。それで『地域の特性』なんていうのがおこがましい。また、地域の特性は、働き始めてから知ることも多く(そのほうが多いんじゃないか)、他の地方から来てもその地域のことを知ることは十分にできます」(「福岡の家電弁護士 なにわ電気商会」)

     つまり、そもそも法科大学院が地域根差した弁護士を輩出するというのは、具体的に、どういう形になることとして、描き込んでいたのか、ということです。「地域の特性」と法科大学院、学生とのつながりです。前記のブログ氏の指摘をみると、法科大学院が各地にできるということから、逆算して、描き込んでみたものの、そこに現実的な形、この制度の有効性をどこまで想定していたのかが、疑わしくなってきます。

     ブログ氏もまた、院長のような言い分が「地方の合格率のよくない法科大学院を残す口実」として言われている現実を指摘していますが、「この手の言説に対しては他の地域から来ながら、地域に根ざして活動している弁護士に対する冒涜とすら感じ」るともしています。

     法曹の「地産地消」は例え方だけでなく、法科大学院が現実的に達成する形として、少なくとも最上段に振りかぶるものとしては、やはり無理があったように思えてきます。


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    既得権益保護のために、「人権」だの「弁護士の質」だの「弁護士がワーキングプア」だのといった爆笑ものの与太話をする弁護士からは、腐臭が漂っているのです。http://d.hatena.ne.jp/ypartner/20111230/1325240143

    任官禁止?

    こういう「地域に根ざした弁護士を育てる」とかほざいてる輩に誰か聞いて下さい。
    「ここを卒業したら、判事か検事を志望しちゃいけないのか?
     それとも、なれないのか?」と。
    判事検事は全国転勤がありますから、地域性も何もない。
    逆に、地域性とやらを刻み込まれた判事や検事なんて、他県に出したら不具合でも起こしそうだ。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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