裁判員候補者名簿流出事故が教えるもの

     弁護士が開設したインターネット上の掲示板に、東京地裁が作成した非公開の裁判員裁判候補者名簿などが掲載され、閲覧できる状態になっていたことが問題となっています。性犯罪被害者の実名入りの判決文や被害者の携帯電話番号、被告人の両親の名前や電話番号なども掲載されていたとされています。

     同名簿の流出が明らかになるのは初めてとされており、それがよりによって弁護士が「非公開」設定にしなかったミスというのは、問題視されるところです。事態の深刻さを受けて、日弁連は事務総長名で、全会員に情報管理を徹底化するように求める緊急要請をFAX送信しました。また、掲載した弁護士が所属する都市型公設事務所「北千住パブリック法律事務所」(東京都足立区)は、ホームページで、「お詫びとご報告」を掲載し、情報管理の徹底と、今後調査することを表明しています。

     ただ、非常にすっきりしない事故です。なぜこういうことになったかといえば、「ミス」ということで基本的には片付けられそうですが、多分、一般に伝わらないのは、そもそもなぜ、こうした情報をネットで弁護士同士が情報交換しなければいけなかったのかということです。それは、一つには内容としての意味、もう一つはどうしても流出の危険があるネットが使われなければいけなかったのか、ということです。

     そこは、まず弁護士側が、一つ一つきっちり説明しなければなりません。どういう続報や、日弁連・事務所側からの発表があるか分かりませんが、今のところ、このままでは国民には伝わらないまま、とにかく弁護士の信用が下がるだけで終わることになりそうです。

     別の見方からの声もあります。流出したのが、裁判員候補者名簿だったことに関するものです。

     「裁判員の情報流出はただでさえ不人気な裁判員裁判をさらに嫌われるものにする。今回、そのトリガーを引いたのが弁護士である。だからこそ、法務省や最高裁と一緒に裁判員制度推進の旗振りをしてきた日弁連執行部はこれに慌てふためいたのだ」

     「裁判員制度はいらない!大運動」のホームページでは、今回の事故をこう取り上げました。しかし、この事故を通して、別の切り口を提示しています。

     「しかし、問題は情報流出なのだろうか?本質的な問題として、裁判員候補者は秘匿されるべきものなのか?裁判で有罪となれば被告人は懲役○年だと自由を、死刑制度を存置している我が国では場合によっては命まで奪われるのである。判決に対する責任の所在は明確化されるべきであり、これができない裁判員裁判は無責任裁判、暗黒裁判である。素人だからプライバシーがどうのというならば、そのような人たちに最初から裁かせてはならないのだ」

     もはや大量の裁判員制度関連報道に触れて、状況として慣らされつつある大衆には、一瞬戸惑う切り口かもしません。そもそも裁判ということから考えれば、どこの誰とも分からない人間が行うことで果たしていいのか、その人間のプライバシーが果たして優先されることなのか、という投げかけです。むしろ、そこに職業裁判官の職責と職業的自覚の重みを大衆が見ていてもおかしくはありません。

     「非公開」になっていなかったことを当然のように問題視されるほどに、実はこのテーマから大衆は目を離され、いつしかそこには何の疑問も抱かなくなっていくかもしれません。こうしたことで裁判員のプライバシーが保護されないから問題という以前に、プライバシーが問題となるというならば市民に裁判を強制させることの方が無理なのではないかということです。

     今回の事故に関して言えば、ネットが使われたことが、もしその利便性からくるのであれば、絶対に流出されない安全性をとるためには、少なくとも今は、ネットに頼らず、それが存在する前の時代の方法論を考えればいい話です。そして、裁判員裁判についても、その匿名性が、日本の裁判というものを、責任の所在が見えず、また批判できないものに変えるのが望ましくないと考えるならば、やはりそれも、市民を強制させた裁判に頼らなければいい、ということになります。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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