「中核でなくなった」法科大学院という認識

     2007年4月1日、毎日新聞朝刊に掲載された宮澤節生・青山学院大学法科大学院教授の「法科大学院を生かすために」と題された一文が、法曹関係者の間で話題となりました。

     「法科大学院はすでに法曹養成制度の中核としての地位を失った」

     彼がそう評した理由は、既にこの時点で司法試験合格率が5割を割ったこと、さらにその低下をほぼ絶望的に予想していたからです。前年の法科大学院修了者による第1回の司法試験の合格率48%、この年は37%程度に低下を予想、司法審が当面の目標とした3000人合格が2010年までに実現しなければ合格率は24%程度まで低下し、以降、その水準が固定化する――と。

     現実には2回目は40.2%だったものの、2008年33.0%、2009年27.6%と低下し続け、2010年は25.4%と落ち込んでいますから、ほぼ宮澤教授の予想通りの展開となっています。彼は前記したように「中核としての地位」の評価は、合格率5割を基準にしていましたが、この中で、彼は、このままの状態を放置したならば、「二度と立ち直ることはできない」との強い危機感を表明していたのでした。

     彼は、やはりその時点で、何としてでも合格率をアップすることを必要として、方策として全法科大学院の入学定員の一律三割削減と総定員数の四千人程度の引き下げを提言しています。彼は、これが2008年に同時実施されても合格率は三割台に達するに過ぎないが、それでも「現状を放置することに比べればはるかにまし」としていました。

     驚くべきことは、既に2007年の段階で既に大学関係者の中に、こうした認識があったということです。この時点で司法試験委員会が合格率を上げる可能性がない以上、引き上げには前記提案のような法科大学院側の決断しかなく、それも彼の提案通りでも「まし」というレベルにしかならないという現実が言われていたことに注目しなければなりません。

     当時、法曹界や大学関係者からは法科大学院に期待する立場から、まだ1回だけの結果では分からない、といった声が多く聞かれました。しかし、合格率の下降一途も、その先に志願者に絞りをかけても合格率アップしかないという大学関係者の発想も、今、「失敗」「破綻」がいわれている2011年の法科大学院制度の置かれた状況そのものを宮澤教授の一文の中に見出してしまう時、当時の多くの関係者の本音もやはり違うところにあったのではないか、と改めて思ってしまいます。

     最もこうした予想を立てた彼にしても、やはり多くの関係者がそうであったように、合格率の低下がもたらすのは、志願者の受験対策志向であり、この制度で解決しようとした状況の再現につながることへの懸念でした。しかし、現実は、この現状は志願者の経済負担との対比でとらえられ、むしろ、志望断念・敬遠の問題として現れ出しています。現実はより彼らの想定を越えて、深刻な形で出たというべきなのかもしれません。

     法曹養成問題で民主党の作業チームは、年明けから論点整理の案をまとめ、法科大学院修了の司法試験受験資格化を見直しの対象にする、という報道が流れています(2011年12月21日10時35分NHKニュース)。

     法科大学院修了が司法試験の受験資格でなくなるということは、もはや名実ともに「法曹養成制度の中核としての地位を失った」ということを意味するものになるでしょう。しかし、一方で、現在が既に「二度と立ち直ることはできない」状態に突入しているということをまだ直視していない、もしくは認めたくない関係者が、まだ沢山いらっしゃるというのが、法科大学院をめぐる現在の状況のように思います。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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