「法科大学院」撤退の道筋案

     「失敗」と「破綻」という言葉が飛び交うようになってきた法科大学院ですが、関係者の中には、やはりいまさら元に戻すなど考えられないといった調子の、あくまで理念の正しさを強調される方もいれば、内心やめるにやめられない、と考えている方もいるようにお見受けします。

     実は、そうした法科大学院の現状をにらんで、長野県弁護士会が今年の8月、ある具体的な改革提案をしていました。

     「学士以上の所持者をロースクールの学生選抜資格とせずに、大学の学部の中にロースクールを組み込むこととする」

     どういうことかというと、学部として法曹養成学部を設置するか、既存の法学部の中に純粋に法学研究を行う法学研究学科と法曹の養成を目的とする法曹養成学科を併設する、というものです。つまり法学部にロース―クールの機能を持たせるということです。この法曹養成学部または法曹養成学科の履修期間は、教養課程1年~2年、専門課程前期2年、同後期2年とすることも提案しています。当然、同学部または同学科卒業生には、司法試験の受験資格が与えられます。

     この提案で、長野県弁護士会は、現行法科大学院システムの欠陥とされる、法学部専門課程の学習が生かされていないことや、法科大学院が法学部の上位に位置することからくる不必要な経済的負担を強いることなどの点を、補うことができるとしています。

     学生にとって最大の障壁とされる経済的負担が軽減されるメリットは非常に大きいものがありますが、もう一つこの提案のメリットは、現行法科大学院からの移行が比較的想定しやすいという点です。

     「法学部のない大学でも、従前の法科大学院を法曹養成学部に組織替えすれば存続が図れるし、法学部のある大学は比較的容易に従前の法科大学院の組織変更ができるうえ、法曹養成学科と並んで法学研究学科を置けば、従来の法学研究を志す学生の需要に応えることができる」

     つまり、やめるにやめられない、どこから手をつけていいか分からない大学側に一つ道筋をつけられないか、という話です。同時に以前書いたような、現在いわれている法科大学院の登場による法学部や研究者養成の沈下といった問題も解決を視野に入れているものといえます。

     もちろん、これはもはや法科大学院制度を中核とする制度では根本的になくなることを意味しますし、そもそも大学側の法科大学院を経済的に期待した妙味もないというべきかもしれません。ただ、志望者がこないでこのまま破綻する道と比べてどうなのか、という選択肢にはなります。

     ただ、弱点ととれるものもあります。長野県弁護士会の提案は、この学部・学科について、入学や養成課程で規制し絞り込めば、卒業者の高い合格率が導き出せますが、「入口で選抜し、将来を決定することには強い抵抗があるため、このシステムによる法曹養成学部又は法曹養成学科の設置及び入学定員には一定の制約を設ける程度に止め、強い規制はしないこととすべき」としています。しかし入口(入学者総定員)で強い規制をかけなくても、司法試験合格者数で絞り込まざるを得ないとすれば、司法試験不合格者が年々滞留していくことには変わらないということにもなります。

     結果、提案は、卒業生には他士業資格か、他士業試験科目の免除などの特典を与えるべき、としています。結局、そこは現在の「三振博士」対策同様の、なんらかの別のメリットの追加を現実化させなければならなくなるということです。

     また、受験資格については、「司法試験はなるべく広く門戸が開放され、様々なルートでの受験が認められることが、広く多様な人材を確保する所以であり,司法試験受験資格は学士以上の所持者で十分であり、法曹養成学部又は法曹養成学科を卒業したか否かは、司法試験合格率に反映されれば足りるという考え方もある」としながら、「司法試験合格前の法曹養成システムをわざわざ構築する意義と意欲を減殺することになるし、また、現行法科大学院の卒業者に与えられる資格についての考え方とも相容れない」と述べています。

     同学部・学科卒業者以外は、別途特例(予備)試験制度でカバーということのようですが、より負担の軽いプロセスへの移行という性格の提案である以上、致し方ないとはいえ、多様な人材確保といった課題やこの予備試験の運用次第では前記受験資格がまたもやカセとしていわれる可能性もあります。さらに、学部・学科に移された教育の内容次第では、やはり旧司法試験との比較においても存在価値が問われる可能性も否定できません。

     学者の方のなかには注目されている方もいらっしゃいますが、あまり広く取り上げられていないように見えます。ただ、このまま法科大学院が存続する可能性はない、という前提に立てば、もっと検討されていい提案のように思えます。もっとも、そうなっていないというところが、逆に関係者の現状認識を示しているといえるのかもしれません。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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