弁護士「ゼロワン地域」という課題

     全国の裁判所支部管内203地域のうち、弁護士がいないか、いても1人だけの、いわゆる「ゼロワン地域」が、遂になくなりました。12月18日、最後まで残っていた「ワン地域」、北海道紋別市の旭川地方裁判所紋別支部管内に、「流氷の町ひまわり基金法律事務所」が開設され、旭川弁護士会に新たに登録した弁護士1人が赴任し、同管内の弁護士は2人なったそうです。

     最低2人ということの意味はいうまでもなく、利害が対立する問題が生じた場合、地域に弁護士が1人では、当事者の一方はほかの地域の弁護士に依頼するしかない、といった問題が生じるわけで、そうした当事者の負担も解消されたことになります。

     日弁連は、1996年(平成8年)定期総会で、この弁護士過疎・偏在の解消に全力で取り組むことを宣言しました。当時、「ゼロワン地域」は、前記全国裁判所支部管内の約4割に当たる78地域もありましたが、日弁連は、弁護士会員から特別会費を徴収して「ひまわり基金」を作り、全国各地の延べ109か所への「ひまわり基金法律事務所」の設立や独立開業支援といった取り組みを続け、実に16億円の費用と、15年の歳月を費やし、解消実現にこぎつけたのでした。

     この「ゼロワン地域」の解消というテーマは、今回の「改革」が描くあまねく「法の支配」をゆきわたらせる、というイメージが被せられてきました。前記定時総会宣言の提案理由には、さらにその3年前の、1993年の日弁連弁護士業務対策シンポジウムで公表された、この「ゼロワン地域」を明らかにする「弁護士0~1マップ」が、当時、マスコミから「法の谷間」とされたことが出てきます。また、今回の解消を報じる12月20日付けの朝日新聞朝刊は、同地域を「『不便な司法』の象徴」と表現しています。

     このテーマは、ずっと弁護士に突きつけられていた、弁護士自身の手で解決を迫られていた利用者利便、あるいは公平のための課題だったのです。しかし、この課題には、当初、もう一つの意味があったように思います。それは、この解消は「条件」というとらえ方です。何のための条件かといえば、「改革」で日弁連・弁護士会が求めていた公的被疑者弁護制度です。

     これがはっきり示された会議の記録があります。2000年4月25日、司法制度改革審議会第18回会議での、水原敏博委員(元名古屋高等検察庁検事長)での報告です。

     「公的被疑者弁護制度の導入には、一定の要件を満たすすべての国民が等しく利用できる制度でなければなりませんし、また、逮捕・勾留の期間内に弁護人が選任されないと実効性を確保できないということなどから、弁護士偏在の問題、集中審理に対応し得る弁護体制の問題、弁護士の公的活動への参加確保など、導入に伴う問題ないし条件が検討される必要がございましょう」
     「さらに、もし弁護活動が期待される水準に達していなかったり、あるいはその内容がもし国民の正義感情に反するようなものであれば、これに税金を投入することについて国民の理解を得ることは容易ではないでございましょう。 そのために、公的資金の導入に見合うだけの弁護活動の水準及び適正さが確保されることが必要でありまして、弁護士倫理の確立や、問題のある弁護活動に対する適切な是正措置の在り方が検討課題であろうと考えております」

     実は当時、法務・検察関係者の取材でも、彼らにこうした考えが強くあったことを覚えています。要するに、国民の税金を投入する以上、国民が公平なサービスを受けられなければならないとともに、適正な弁護士も確保されていなければならないといったことが、まさに「条件」として突きつけられていました。後者については、「不適切弁護」といった言葉も使われ、取り調べでの弁護人立ち会いを要求し、立ち会わない限り一切の取り調べを拒否することなどを掲げていた「ミランダの会」がやり玉に挙げられたりもしました。

     もちろん、この条件化には弁護士の中に異論もありましたが、まさに弁護士の偏在問題の解消は、この「条件」クリアへ弁護士が示すべきひとつの姿勢という、意味をはらむ位置に置かれていた課題であり、「ゼロワン」はその象徴ともなったのです。

     その意味では、当時、「0~1マップ」が顕在化させた課題がむしろ条件化というやぶへびに作用したかのように見る声もあったように記憶します。また、その後の日本司法支援センターの登場が、当初の見込みよりも、弁護士会の頭越しに「あまねく」に貢献したとの見方もなくはありません。

     しかし、逆に「ゼロワン」解消という弁護士の課題を、今、長い歳月と多額のお金を使って、達成した成果の前で、思い返してみれば、目の前に突きつけられた条件クリアではとても語りきれない、さらに強い目的意識が多くの弁護士たちを突き動かし、長く支えてきたのだということを改めて感じます。


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    弁護過疎問題は、長らく法曹人口激増(毎年3000人)の正当化理由とされてきました。ゼロワン問題に取り組んできた弁護士のほとんどは激増肯定派です。いまだに、ゼロワン地域が解消したことを、未だに、合格者2000人と結びつけようとする弁護士も後を絶ちません。ですので、弁護過疎問題を議論するときは、激増に結びつかないように、慎重に考える必要があります。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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