「法学部」が描き込まれなかった法科大学院構想

     これまでの一発試験である旧司法試験を改め、プロセスの教育として、法科大学院制度を作るというイメージには、よく専門家の間でも「医学部」の存在があったという話を聞きます。これは一般に、分かりやすいイメージだったというべきです。

     このイメージはどこから来たのでしょうか。今回の「改革」論議では、法曹をそれこそ「社会生活上の医師」との表現が広くつかわれ、「医師」のイメージはかぶせられましたが、いうまでもなく、これは「身近」「予防」というテーマにもつながる在り方の問題です。

     養成過程という意味においては、最もはっきりとしたイメージづくりに貢献したのは、合格者3000人体制を掲げ、修了者の7、8割が合格を目標にするととれる司法制度改革審議会の描いた方針です。大衆が持っている医学部に入れば、まず医者になれる、というイメージの移し替えです。

     その後、法科大学院を推進した方々も7、8割実現可能性を確信していたのか、どうも怪しい話も聞かれ出し、識者のなかには「達成不可能なことくらい分かったろ」といった志望者自己責任論まで聞かれることになったわけです。それを考えてしまうと、関係者が、どこまで法科大学院の宣伝効果を狙って、これを発信したのか疑いたくなる面も否定できせん。

     ただ、このイメージが実現することを前提に、法科大学院という構想には、質・量ともに豊かな法曹の人材確保、果ては日本型法科社会、司法による事後救済型社会といった「改革」の理想ものっけられていたように思えます。

     この法科大学院立ち上げの発想について、7月に行われた日本民主法律家協会司法制度研究集会のプレシンポジウムで、広渡清吾・専修大学教授が取り上げていました(「法と民主主義」2011年11月号)。

     実は、広渡教授らはこの構想に「事前のウォーニング(警告)」をしていたと言っています。その一番目に挙げられているのが、法学部との関係です。法科大学院は法学未修コース3年、既修コース2年ができることになりますが、前者が原則とされました。法学部外の学生も視野に入れ、そこに多様な人材確保という理念を被せたともいえるわけですが、実は「法学部」という存在を前提に考え、「学部と法科大学院」をつなぐ形にすべきという議論があったとしています。しかし、この議論は司法審で「粉砕」された、と。

     「なぜかといえば、オープンではない。それぞれの大学が自分のところの学生を抱え込み、大学院であと2年育てて法曹として送り出そうというもの」とされた、というのです。これが、この構想のなかで、法学部は制度的に位置付けられなかった理由として挙げられています。

     さらに、広渡教授は、こんな当時の状況も紹介しています。

     「当時、文科省の担当者やロースクール導入推進論者は、法学部不要論ないし法学部リベラルアーツ学部化論を言っていました」

     結果どうなったかといえば、法科大学院の教員確保のために、法学部も、研究者養成課程も人材をとられ、教師のエネルギーも下がってきているということです。以前も書いたような、法学部の「沈下」が起こっていることになります(「『法学部』沈下という想定」)。彼はこう言っています。

     「法科大学院に資源が偏り、学部と研究者養成ところが手薄になっている。学部で手薄になると、いい学生が育っていかないし、研究者養成が生まれていかないわけで、結局、どこに跳ね返るかというと、法曹養成もうまくできないということになってしまう。そういうマイナスのスパイラルを正の循環に戻すことが重要です」

     彼の結論は、法学部教育を基礎にした法曹養成の在り方を考えた方がいいというものです。「医学部」というイメージが被せられるところから始まりながら、全く別の現実を抱えている法科大学院をめぐっては、今後、どこまで根本的な仕切り直しの議論をするのか、あるいはできるのか――そこに法曹養成の未来がかかっています。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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