ある日弁連会長候補者の闘い

     平成20年(2008年)に高山俊吉弁護士が肩を並べるまで、日弁連会長選最多立候補者として、単独首位の座にいたのは、千葉県弁護士会の故・川本赳夫弁護士です。同弁護士については、面白い思い出が沢山あります。

     最初にお目にかかったのは、1980年代の初頭です。丸メガネに運動靴、それに当時既にほとんど見かけなくなっていた航空会社のショルダーバックという、およそ弁護士らしからぬ、いでたちで千葉から上京。霞が関の東京三会に自説を説いて回り、帰りに有楽町にあった当時私がいた新聞社の編集部に立ち寄って、ひとしきりまた気炎を上げて帰られるのが常でした。

     日弁連会長選の東京公聴会では、本命と目される主流派候補側の並みいる歴代日弁連会長や執行部関係者を名指しでこき下ろしました。

     「そのときの会長が、そこに座っている○○だ」

     ご本人は大真面目でしたが、会場は爆笑のうずでした。そんな彼が、日弁連会長選出馬の度に掲げていた主張がありました。

     「民事大激減」

     裁判所の事件数は、戦前の方が数倍多く、民事事件は大激減した――。弁護士の経済基盤に対する警鐘というべきものです。彼は最高裁の統計を刷り込み、手書きでこの主張をびっしり書き込んだチラシを作成し、あちらこちらを説いて回りました。彼が当落度外視で日弁連会長選に度々チャレンジしたのは、まさにこれを訴えたかったからでした。

     ある年の会長選公示日が迫った日、朝日新聞が社説の一部で、川本弁護士の主張に近い事件数減の論調を掲げました。これを見た彼は、興奮していました。

     「ついに朝日が書いた。時は来た」

     彼は、今回は見合わせるつもりだった会長選への出馬を急きょ決心。無風選挙を予定していた主流派候補の陣営は、慌てて使者を千葉の彼の元に送り、出馬を思いとどまるよう説得しましたが、彼が首を縦に振ることはありませんでした。それほどまでに、彼はこの主張に情熱を注いでいたのです。

     「この候補者の公約には先見の明があった」

     昨年、実名は登場しないものの、どうやら川本弁護士を指すらしい、こんな一文をある機関誌のなかで見つけました(自由法曹団通信1347号「司法改革は『司法大激減』の再現か」吉原稔弁護士)。同文では会長任期1年ころの候補者としていますが、川本氏は2年制になって5回出馬しています。しかし、公約からいって、川本弁護士のことと見て間違いないと思います。

     この中で吉原弁護士は、民事通常事件数は平成20年までの4年間で1.3倍、彼の地元大津地裁では1.5倍、控訴提起は1万5295件から1万3500件、保全は2万3030件が2万282件で「通常事件は微増、又は横ばい」。それに対し、滋賀弁護士会の会員数は倍化した、と。

     司法改革の結果、増えたのは弁護士だけで、肝心の民事は過払い返還以外増えていない――今の状況は「相対的民事大激減」だというわけです。吉原弁護士はこんな風に嘆いています。

     「よく、弁護士増員は大都市では限界だが、地方ではまだまだいけるといわれるが、とんでもない。大津地裁は平常でも、代理人は、大阪から四分の一、京都から四分の一、残りの二分の一を一〇〇名の会員が分け合っている。つまり、大阪、京都弁護士会の侵入を受けている植民地なのである」
     「最大のもうけ口である破産管財事件も、大口はほとんど大阪、京都の弁護士がやっている。しかも、訴額が減少して事件の規模が小さくなっている。事件の三分の一はサラ金、多重債務事件、これは、あと二年もすればなくなるから、まさにお先真っ暗である。地方の町弁は、地裁の(ワ)号事件(筆者注・第1審通常民事事件)がないと食っていけない」
     「(ワ)号事件があってこその弁護士なのであって、予防法曹では飯は食えない。これから開業する人にはゆゆしき問題であるが、私のようなロートルにも引退を迫られているようで侘しい」

     以前いた新聞社でも、川本弁護士の主張は何度か取り上げたことがありましたが、弁護士が食えなくなるという警鐘に、当時の多くの弁護士は、耳を貸しませんでした。しかし、皮肉にも「弁護士を増やせば事件も増える」と見込んだ「改革」は、その危機感を、いまやより現実のものとして弁護士に突きつけるものになっています。

     「時は来た」。川本弁護士が、会長選出馬の準備を始めているような気がします。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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