法科大学院構想のツケ

     2004年4月の法科大学院創設の前年の6月、既に開校へ名乗りを上げた各大学のホームページをのぞいて驚きました。対応の違いが各大学でさまざまで、予想以上にバラバラだったからです。

     それは各校の「カラー」とか、工夫による違いという印象ではありませんでした。要綱などを紹介している所、設立理念を前面に打ち出している所、普通の大学の入試案内のような事務的な扱いの所、はたまたどこをのぞいても、「法科大学院」の文字が一文字もない所――。

     各大学によって準備の進捗状況が違うのは当然だとしても、正直、この時に伝わってきたのは、各大学当局の期待度と設立をめぐる事情の温度差と、「何はともあれ名乗りを上げねば乗り遅れる」というムードでした。

     この時点で、この法科大学院はどんなことが予想され、懸念されていたのか――。当時、取材して書いた記事を読み返すと、そのうちの一つとして、「競争」ということが書かれていました。「法科大学院に待っているのは熾烈な『競争』である」と。

     この「競争」について、司法審最終意見書は、「それぞれの大学が特色を発揮し、独自性を競い合う中で全体として活性化が期待される」などと、ぼやけた表現しかしていませんでした。しかし、当時既に予想されていたのは、法科大学院を存続させていくための経営努力による「競争」がもたらす活性化が、常によりよい法曹教育を提供するものになるのかという懸念でした。

     要は「プロセス」重視の教育という眼目と、学生を確保することが存続のための絶対条件となる大学の「競争」とがどういう関係で成り立つのかが、当時からよく分からなかったのです。懸念された予想はこうでした。もし、新司法試験が厳格に存在し、当初の修了者7,8割の合格が実現しなければ、法科大学院生は受験予備校に依存し、または法科大学院が予備校化する方向で「競争」が行われる。一方、バイパスを狭くし、新司法試験が容易にパスできる道を作れば作るほど、今度は内容ではなく、入学・授業における負担が軽い法科大学院ほど人気を集まるという方向の「競争」が始まり、当然、質は危険にさらされる、と。

     その他、私立校間での国立をにらんだ学費の減額競争、合格後の法律事務所、裁判官、検察官採用での法科大学院による選別といった見通しもささやかれていました。

     当時、こうしたことに触れて、大学のうち、法科大学院「開校」を新たなブランドイメージにすることの方を期待した参戦組には「過酷な未来予想図」と記事では書きました。ただ、懸念は懸念として当たってはいたものの、ある意味、現実は彼らにより絶望的な形で現れたというべきかもしれません。

     第1期生の段階で法科大学院修了者7、8割合格の実現が将来にわたり不可能という見通しは濃厚となり、いまや本格的な「競争」以前に、おカネがかかるのに「受からない」法科大学院には人は集まらないという方向が明確になりました。そもそもその先の弁護士増員そのものが成り立たず、受かっても仕事がない状況があるにもかかわらず、学生には学費負担、さらに修習時代の「給費制」廃止までのしかかり、借金を抱えてのスタートが待ち受けているとなれば、これもまた当然のことではあります。

     ある意味、志望者がこの世界にそれでもやって来ることを前提としていた前記予想図は、「競争」による「活性化」以前に成り立たなくなったように見えます。これから始まる「競争」がどういうものになるかは分かりませんが、それ以前に、抜本的にメスが入れられる可能性も出てきました。

     今、未来に立って見れば、法科大学院運営についての「過酷な予想図」はとりあえず描き、懸念していたかもしれない法科大学院関係者や「改革」推進者には、志望者たちの「過酷な未来」に目を向けなさすぎたツケが回ってきたと思えてなりません。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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