依頼者「自己責任」の酷

     この社会では時々、「騙される方が悪い」という言い方を聞くことがあります。とりわけ、悪徳商法や詐欺の被害にあった人に対しても、言われるもので、要はいかにも怪しげなものに手を出すのはどうなんだ、怪しいのは見抜けただろう、といった被害者側の落ち度を責める論調です。

     もちろん、この言い方の最大の不当性は、そう強調するほどに、「騙した」側を免罪するようなところがあるところです。だから、この言い方に自分のことは自分で守れという自己防衛の意識の必要性を読み込む人は、あえてこれを言い換えて、「騙される側も悪い」と言ったりします。

     こうなってくると、ぐっと社会の支持者もまた増えてくるかもしれません。「騙される」ということに限らず、サラ金問題などでも出てくる借り手側の責任を重く見る見方ともつながり、自らの判断の重要性、またそうした意識や能力を大衆に啓蒙する必要性をいう言い方にもなります。

     そして、いうまでもなく、そうした見方を後押しするものは、規制緩和という流れの中で強調される自己責任というとらえ方です。本来保護されるべきものが保護されるのは当然ではあっても、社会的なムードとしてそうした方向が醸成されてきている観はあります。

     しかし、大衆の自己防衛の必要性や自己責任をかぶせるには、当然、前提条件と程度の問題があります。そもそも自らが判断できる条件がそろっているのか、そしてそれをかぶせることが、被害の度合いを含めて、どのくらい大衆側に現実的に酷なことなのかは考えられていいはずです。そして、この現状認識がまた見解の分かれるところでもあります。

     実は弁護士と依頼者との関係についても、このことがいわれます。弁護士が激増して、仮にその質にバラつきができたとしても、それを国民が取捨・選択すればいいことであるという見方です。ある意味、この考え方が成り立つと考える上に、質の悪い弁護士は選択されず、淘汰されるという考え方もまた成立し、さらにその前提で、質の保証なき増員路線も肯定されることになります。

     当然、ここではいわば「外れ」の弁護士を選択するのもまた、依頼者の自己責任ということになります。問題はここで前記したような前提条件と程度の問題を現実的な弁護士と依頼者の関係はクリアしているのかということになります。弁護士とのつながりのない市民を基準に考えれば、選択できる情報にアクセスできるのか、どこまでが判断できてどこまでが弁護士の手の内にあるのか、セカンド・オピニオンなど他の情報に現実的にアクセスできるのか、その負担はどうなのか。そして現状においてそれはどのくらい酷なことなのか――こうした点で見解が分かれます。

     増員や選択確保による自己責任を肯定する側は、そうした環境を整備すればいいこととしたり、また、国民を持ち上げて「国民の目を肥えている」といったニュアンスで、国民側主導の選択機会確保を強調し、さらには懸念論に対して「国民の能力を愚弄しているのか」といった言い方まで飛び出します。

     あたかも国民に自由な選択機会と能力が担保されていると、持ち上げながらいう論法は、一面、自己責任を押し付ける場合の常套手段でもあり、それかどれだけ現実的に困難が伴い、国民の負担なのかを顧みないところがあります。そもそもこと弁護士については、「資格」というものが保証するもの、それに国民が期待する一定レベルの安全、信頼、あるいは質の提供というものをどう考えるのかという問題があります。国民にとっては「資格」が一定の質を保証してくれることこそ、望ましいわけで、「資格」がそれを担保てきないことのしわ寄せを、能力とか選択の自由を挙げて、結局、国民の自己責任に被せることがあっていいと思いません。

     最近、こうした流れの話のなかで、弁護士依頼についても、「何も国民を甘やかさなくてもいい」という声が聞かれます。まさか国内有数の選抜試験と厳格な養成過程を経ることを前提にしてきた法曹について、その中身の妥当性が社会的に問われることがあっても、接する国民側の妥当性に、こうした言い方が被せられる時代が来るとも思いませんでした。

     「外れ」弁護士をひいた市民側の落ち度も責められる時代もまた、やってこようとしているように思えます。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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