根拠なき「改革」という認識

     10月1日に行われた日本民主法律家協会の司法制度研究集会のパネルディスカッションで、会場から鈴木秀幸弁護士がパネラーに対して、興味深い次の2点の質問を投げかけました(「法と民主主義」2011年11月号)。

     「今回の司法改革がほとんど裁判所の改革にならなかった理由はどこにあるのか」
     「裁判所の改善・改革のために今回の合格者大量増員と法科大学院創設は何か役立つことがあったか」

     おそらく「改革」の現状に対して、首をかしげている多くの弁護士が持っている疑問をストレートにぶつけたといっていいと思います。この裁判所の「改革」が欠落している感覚、また、それ以上に当初いわれていたそれが、尻つぼみとなり、気がつけば弁護士の「改革」がいわれ、突きつけられているという感覚を多くの弁護士が持っているからです。

     この質問の一問目には、今回のパネラーで、日弁連司法改革実現本部本部長代行を務め、日弁連の改革路線の中心にいた宮本康昭弁護士がこたえています。彼は裁判官制度の改革が進まなかった理由は非常に明瞭だとしてこう述べています。

     「つまり、司法制度改革審議会の発足当初、その以前から、最高裁はずっと一貫して、裁判所の側に改革すべきものは何もないという態度で来ていました」

     宮本弁護士は法務省も同様に、検察官制度について改革すべきものはない、という姿勢であり、かつ最高裁は「改革すべきものがあるとすればそれ弁護士制度である。司法改革の問題性は、弁護士改革の問題である」とずっと言ってきている、としています。

     後半の質問には、やはりパネラーである戒能通厚・早稲田大学名誉教授がこたえています。彼の言っていることもまた、明瞭です。

     「司法審が言っていることに、いかにエビデンスがないか」

     エビデンス、つまり科学的根拠がない、と。彼は「これが今度の司法改革の一番の問題点」と思うとしています。具体的には①法科大学院修了7、8割が受かるような法曹がなぜいるのか、そういうニーズがあるのかの調査をせず、7、8割合格に大学側が飛びつき、法科大学院が乱立した②これは今回の司法改革と司法審意見書を象徴しており、全部目分量、空想的な計算に基づいている③全員司法試験に受かるわけではないのに何のために法務博士を作るのか、受からない人は一体どうすべきかシミュレーションをやるべきで、学生がもろに被害を受けている――。

     鈴木弁護士の質問は、合格者大量増員と法科大学院が裁判所改革に役立っているかどうかでしたが、役立つどころか、そもそも両方とも「改革」を現実化する根拠がなく始めたことだという話です。

     あるいはこれまでの経緯を知らない一般市民の方のなかには、「改革」の中心にいた弁護士や、専門家である学者の口から出る「改革」に対するこの総括について、耳や目を疑う方もいらっしゃるかとは思います。しかし、これが現実です。

     ただ、ここでもう一つ、落としてはいけないことがあります。日弁連は一体、この「改革」に何を見て、弁護士会員に「改革」を呼びかけてきたのかということです。今回示されている見解を見ても、裁判所改革には、もともと裁判所が消極的であったために実現されず、法科大学院制度を中核とする新法曹養成を掲げた司法審最終意見書の路線は、もともと科学的根拠がなかった、という話です。

     宮本弁護士は裁判所制度の問題に対し、日弁連や市民グループがなんとかこじ開けようとしてきたと、その努力のほどを言い添えていますが、むしろそこは鈴木弁護士が質問とともに言及した点が重要です。つまり、日弁連は1990年の第1次司法改革宣言の翌年の第2次宣言で、弁護士の自己改革が強調され、その後の7、8年の司法改革運動は裁判所の批判を抑えて協調路線がとられ、日弁連から会員に対するメッセージには、裁判所の問題点、法曹一元がなぜ必要かということがほとんどなかった、と。

     弁護士改革がいつのまにか「改革」の主眼とされ、やがて「登山口」などと表現する言い方が弁護士会の中で聞かれ出したことは、以前にも書きました(「弁護士『懺悔』の行く末」)。鈴木弁護士は、「法曹一元」も弁護士・合格者増員を正当化するために持ち出された印象がある、としています。

     「改革」の現実とともに、この日弁連が取ってきた「改革」への姿勢そのものに、まず日弁連会員は疑問の目を向けるべきだと思います。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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