「事件創出能力」がもたらすもの

     賛否をめぐり大きな議論になっているTPP(Trans-Pacific Partnership、環太平洋戦略的経済連携協定)ですが、弁護士界では反対論調が強いようです。日本社会全体に影響を与えるという観点での意見ももちろんありますが、こと弁護士業との関係では、かつての外国人弁護士問題を彷彿させるものもあります。

     つまり、大量の米国弁護士がやって来る、という前提に立つものです。「黒船来襲」的な論調は、典型的な日本国内的な脅威論のような感じもしますが、現に1980年代に弁護士会で大騒ぎになった外弁問題も、少なくともこうした「黒船」で弁護士個々の業務に多大な影響が出るという脅威論に関しては、「大山鳴動、鼠一匹」的にとらえている弁護士も少なくありません。

     TPPに関連して、法務省も外務省も司法関連分野への影響は少ないとの見方のようですし、これがまた外弁論争の二の舞か否かは、直ちに断定はできないにせよ、一般の方がこれを聞いても、首をかしげるような気がします。なぜなら、さすがに弁護士が今、経済的に苦しい、数は増やしたが仕事にあぶれているという話は、マスコミを通じて知っているからです。
     
     要するに、日本の弁護士がそんなに食えなくなっている市場に、何で海を越えて米国の弁護士がやってくるんだ、という話です。掘り起こせばまだまだあるという、増員推進派の掛け声が正しいとすれば、優秀な米国弁護士が、日本人弁護士が掘り起こせないニーズを掘り起こすということでしょうか。もっとも普通に考えれば、米国弁護士たちのライバルになるのは、企業系や渉外系の弁護士で、多くの「街弁」にはそもそもどれだけ関係があるのか分からないということもあります。

     小林正啓弁護士が、最近の自身のブログで、あえてTPP賛成の立場に立って、弁護士業界に起こることを推測しています(「TPPは弁護士業界に何をもたらすか」)。このなかで、小林弁護士も前記したような大量の米国弁護士来襲を、やはり経済状況から「眉唾」としていますが、それでもビジネスチャンスを求めてくる米国弁護士、あるいは本国で「卯建が上がらない弁護士」がやって来る状況で何が起こるのかを次のように書いています。

     「米国弁護士が、当事者双方の代理人に付くことはまずない、ということだ。つまり、米国弁護士が代理人として何か要求をしてきたとき、対応する日本人・日本企業の多くは日本人弁護士を依頼する、ということである」
     「このことは、日本の弁護士業界に明らかな朗報だと思う。米国弁護士が事件をどんどん掘り起こし、作りだしてくれれば、日本の弁護士には労せずして、事件の依頼が多数舞い込むことになる」
     「日本の弁護士業界は大変な不景気だが、その原因は、日本の弁護士の『事件創出能力』が欠けていることにもある。米国弁護士は、日本人が思いも付かないやり方で、法的トラブルを作りだしてくれるだろうし、そのノウハウを盗むチャンスをくれるだろう」
     「また、米国で卯建の上がらない弁護士の能力は、相当低いとみて間違いない。日本というホームグランドで、日本人弁護士が負けることはない。つまり、米国弁護士がもし流入してくれば、既存の日本の弁護士に、巨大な利益をもたらす可能性がある」

     やって来ないという話に立てばそれまでですが、仮にやって来ても、あながち悪い話ではない、という見方もできるということになります。ただし、これはあくまで弁護士にとってという話です。日本の社会や日本人にとっていいのかという話は別です。

     ポイントはいうまでもなく、小林弁護士が書いている弁護士の「事件創出能力」です。これが一体、誰のものなのかも明らかです。

     「日本人はそんな訴訟社会を望まないって?そう言う人には問い返したい。訴訟社会化は、TPP問題以前に、日本人自身が選択したことだ。弁護士を増やして、訴訟社会化が進まないなんて、思っていたのか」

     小林弁護士は、こう皮肉めいた問いかけをしています。米国弁護士に伍するような「事件創出能力」などに日本の弁護士が長けていないことが、日本社会や日本人にとっては、有り難いことかもしれないということは考えておいていいように思います。


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    事件は創出できる

     活字で読んだ限りでは、米国では、ほんの僅かな民事事件成立の芽でもあろうものなら、原告になり得る側の(法)人に、着手料その他の訴訟費用を一切弁護士が負担する代わりに、勝訴した場合には判決金額を山分けするとかの、当事者(?)にとっては濡れ手で粟の金儲けができる機会を提供する、と言うやり方で(まさに事件創出)稼いでいる弁護士がいるそうです。

     そういったことは、米国には「懲罰的損害賠償金」などというものがあるかららしいのですが、TPP条約が日本で施行されると、米国弁護士が、日本に懲罰的損害賠償金言い渡し制度がないのはけしからん、などと国際機関に申し立てて、その制度を国内でも成立させる狙いがあるかもしれません。

     実際に裁判を起こすことは面倒だから、と言う理由であえて裁判に持ち込まない揉め事を抱えている人はかなり存在するようですが、そんな制度ができて、米国弁護士が日本に進出してくると、弁護士のみならず、それ以外の(法)人にも大きな影響が出てくるかもしれません。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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