「裁判員制度」のチグハグ感

     いわれる理念と現実が、どうも筋が通っていない感じがする裁判員制度ですが、やや皮肉な言い方をすれば、12月3日の朝日新聞朝刊の「check!裁判員時代」という企画記事は、そうした制度の実態を表している印象を持ちました。
     
     「どうなの司法改革通信」№27でも取り上げましたが、2009年5月施行の裁判員制度の「3年後の見直し」まで半年を切ったことから、その見直しにスポットを当てたもので、ポイントとして既にいわれている対象事件の範囲、裁判員の守秘義務、死刑判決での全員一致などを挙げています。

     ただ、薬物事犯を対象外にすべきか否かの議論に関係して、3月の東京地裁であった覚醒剤密輸事件後の記者会見で、裁判員の意見が割れた話を次のように紹介しています。

     「『覚醒剤は普段、かかわりがない』として市民参加に疑問を投げかける意見が出た一方で、『密輸の罪の重さを知ることができた。「身近でない」との理由で対象から外すのは反対だ』との声もあった」

     いうまでもなく、「かかわりがない」「身近でない」ということをいえば、裁判員裁判の対象となる重大な刑事事件はすべて市民にとってはそういう存在であるのは明らかです。そういう意味では、後者の方の言い分に理があるようにも見えますが、市民に「密輸の重さ」を知ってもらうために裁判があるわけもありません。

     ところが、このあと8月の講演での個人的な意見との前置きを付けて、笠間治雄検事総長のこんな言い方が出てきます。

     「非常に特殊な話。国民の良識を入れて判断しないといけないのだろうか」

     そもそも裁判には、国民の良識を入れて判断すべきものと、そうでないものがある、ということでしょうか。他の重大事件とこうした案件を並べて、対象にする必要性が低いというご意見でしょうか。「非常に特殊」ということが理由でしょうか。

     評議の場で出た意見などに関する守秘義務については、やはりという意見が朝日の裁判員経験者へのアンケート結果として紹介されています。

     「『裁判員を務めたことも守秘義務の対象だと思っていた』との戸惑いや、『評議内容や結論の決め方を周囲に積極的に話してこそ、制度が広まるのでは』といった声が寄せられた」

     裁判員として参加する市民が増えることで、この制度の意義が理解され、社会に定着化していくといった制度擁護論がいわれる度に、「矛盾」とされる守秘義務の実態です。むしろこの制度が、「開かれた司法」どころか、不都合な現実を隠ぺいするものだといった意見も出されるところです。

     極めつけは、法務省の検討会の委員の一人として、取り上げられ、推進派弁護士として、これまでも発言してきたことで知られる四宮啓・国学院大学法科大学院教授の以下のコメントです。

     「裁判員の大半が『いい経験』と振り返り、法曹三者も『おおむね順調』と感じている。見直しはあってもいいが、裁判員裁判だから生じている課題なのか、そもそも刑事裁判全体が抱える課題なのか、慎重な見極めが必要だろう」

     前段は、ここもまた相当な異論があるところですが、一体、何を強調されたかったのでしょうか。後段とつなぎ併せて読むと、順調な裁判員制度に手を入れたくないようにもとれなくありません。裁判員制度の問題ではなく、刑事裁判全体が抱える課題だとすれば、そうした課題をそのままに裁判員制度が続くことはどうなのか、といった、突っ込み方もあります。見直し論議に当たり、裁判員制度が悪いわけではない、という意味の擁護をしようとしている布石なのだとすれば、それはそれでどうなのかという話にもなります。

     このちぐはぐな感じが、単にこの記事の作り方、コメントの取捨の仕方によるものなのか、それとも冒頭印象として述べたように、制度の現実そのものの反映なのか、そこがポイントです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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