「担保」が問われる「改革」

     法律家は「担保」という言葉を好んで使う印象があります。債権の安全と確実を保証するために債務者が債権者に提供するものを指す法律用語のことではありません。転じて、単に「安全と確実の保証」あるいは「確保」といった意味で使う場合のことです。

     「実効性担保」といった複合語や、「安全性を担保する」といった動詞で使い方は、いまや官庁用語としても一般的に見ますが、実は少し前まで、こうした用法は、どの国語辞典にも載っていませんでした。

     だとすると、あるいはこの使い方を一般化させたのは、本来の意味でのこの言葉を使いこなしてきた法律関係者なのかもしれない、という推理もできなくないように思えます。

     実は、この本来の用法ではない「担保」という言葉が、しばしば弁護士から司法書士に突きつけられています。簡裁の民事訴訟代理権をめぐる「能力担保」という問題です。

     この問題で「能力担保」がはっきり打ち出されたのは、いうまでもなく2001年の司法制度改革審議会の最終意見書です。簡裁の民事訴訟代理権の司法書士への付与を打ち出した同意見書には、「信頼性の高い能力担保措置を講じた上で」という一文が加えられています。

     これは司法書士にとって、文字通り代理権獲得のためのハードルとなり、実務処理能力担保のための100時間に及ぶ特別研修を受け、その修了後に行われる簡裁訴訟代理能力等認定考査(簡裁考査)に合格し、法務大臣の認定を受けるという現在の形になったのです。

     実はこの「能力担保措置」自体に対し、弁護士の中には疑問視する見方があります。日弁連の機関誌「自由と正義」が2009年11月号で組んだ特集「隣接士業問題の現況と今後の方向性について」では、このことがはっきり打ち出されています。

     多分に司法書士など、いわゆる弁護士から見た「隣接士業」といわれる弁護士外法律関連士業から出されている、さらなる権限拡大の方向をにらんだ企画でしたが、掲載されている弁護士の論稿は、そうした拡大要求を批判しつつ、根本的な「隣接」の資質から、士業側が行う能力担保研修も権限付与の条件とはならない、とするもので、いわば「隣接」側の侵攻に強烈な一撃を加えるともに、「担保」への不信感をあらわにしたものでした。

     ただ、当初から「改革」の描き方に疑問の声がなかったわけでもありませんでした。代理権付与をあくまで司法書士活用論とする人は、もちろんこうした「担保措置」によって、士業自体の「底上げ的能力向上は当然期待されている」と見ていましたが、当時、取材したある司法書士は、これに対して、全く違う見方を示してこう語っていました。

     「ほとんど代理権に意欲がない多数の司法書士を含め、底上げ的能力向上など『百年河清を待つ』に等しい。このことは司法審も法務省も百も承知だろう」
     「狙いは弁護士法72条の見直しを念頭に置いた弁護士の弱体化。窓口代理人から脱却したい日司連(日本司法書士会連合会)が、それに飛びついた」

     現在でも、登記主体とする司法書士の中には、この認定司法書士制度に冷めた見方をする人がいますが、「能力担保」としての限界や、さらに「改革」の本当の狙いについて見通していた司法書士がいたことは注目できます。

     さて、「改革」はある意味皮肉にも「担保」という問題を今、弁護士自身にも突きつけています。弁護士増員による就職難と「即独」の時代、かつてあった法律事務所内での修養プロセスが壊され、OJTの確保という課題が突きつけられています。

     最近も第二東京弁護士会が即独支援策として、新人会員を対象に事務所スペースの提供に乗り出すことが報じられ、話題となっていますが(11月26日「毎日新聞」配信)、弁護士会はこれまでにない対応に迫られています。

     弁護士増員による「質」の低下については、これが競争による淘汰で「質」が担保されるという見方があります。しかし、「能力担保」であると同時に、むしろ国民からすれば「安全の担保」という視点でとらえるべきものです。つまり、いかに「安全」なものが提供されているのか、ということです。

     「隣接」士業にしても、弁護士増員の影響にしても、市民の自己責任に転嫁して、「安全の担保」を緩くみる方向には、国民としてはまず、目を光らせなければなりません。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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