最高裁判断の「逃げ道」

     現実のこととして、言われてきたことでも、やはりその当事者がはっきりとそれを言葉にするということの重みは違います。あるいは11月30日の朝日新聞朝刊オピニオン面「耕論」に登場した園部逸夫・元最高裁判事の発言に、その思いを強くされた方もいらっしゃるかと思います。

     「元最高裁判事 原発訴訟を語る」というタイトルのこの企画記事は、3月の福島原発事故で、最高裁の対応が変わるのか、というテーマのもと、同元判事と、弁護士である元原利文・元最高裁判事を登場させています。

     そのなかで一番注目できたのは、園部元判事の発言です。「もんじゅ」訴訟で2005年に原告逆転敗訴を言い渡した最高裁判決に触れ、高裁判事は難しい技術についても懸命に調べ、原告勝訴の判決を書いたはずだが、「原発訴訟ではこういうことが起こる」として、こう述べます。

     「最高裁には、行政庁のいうことは基本的に正しいという感覚があります。それを理屈立てするために『行政庁の自由裁量』という逃げ道が用意されています」

     園部元判事はこの裁量には二つあり、一つは安全性に「看過しがたい過誤・欠落」がない限り、高度の専門知識を備えた行政庁の判断を尊重する「専門技術裁量」と、「経済活動に原発は必要」といった行政の政治判断にゆだねる「政治的裁量」がある、と。

     この「逃げ道」云々の話に、この人は一体何をいっているのだろう、という風に思われた方がいたとしたならば、むしろその人の方が正常な感覚というべきかもしれません。いうまでもなく、最終審である最高裁がこうして判断から逃げる、そのカラクリを園部元判事は明らかにしているのです。彼はこう言います。

     「国策に絡む問題に深く立ち入って判断をすることへの『消極的な感覚』とでもいうようなものがあるのです」

     最高裁の外から言われてきた批判論調を、そのまま認めたともとれる発言です。彼は司法システムの改革が必要であり、「行政裁判所」的なものの必要性に言及しています。

     一方、元原元判事も上級審よりも下級審に期待すべき、というお考えを述べていらっしゃいます。上級審になるにつれて、裁判官一人当たりの担当事件数が増えるので「一つ一つの事件にじっくり向き合って審理ができなくなる」としています。

     そして、元原元判事は「国策」でも間違っていれば、裁判所は「間違っていた」というべきとし、また「定数訴訟」で最高裁判事の意見に「違憲」論への微妙な変化が現れたことを挙げ、原発差し止めの下級審判決が多く出ていれば、それに同調する世論が高まり、最高裁ももっと正面から問題に取り組んでいたかもしれない、との見方を示しています。

     その意味では、今回の原発事故での世論状況が下級審判断に結び付き、それが最高裁の判断にも及ぶという可能性が導き出せる見方につながっています。

     ただ、それはともかく、そもそもここで示されているような最高裁、あるいは裁判所システムの実態を国民は、どれほど理解してきたのでしょうか。原発訴訟に限らず、この「逃げ道」をどのくらいの国民が知って、日刊紙やテレビが報道する、判決という結論を見てきたのでしょうか。

     その意味では、朝日のこの「企画」がそれを伝えている意味は大きいと思いますが、これまで敗訴した原告側が叫んだ、その消極姿勢が取り上げられてこなかった、さらにあるいは今回の事故がなければ、今も取り上げていないだろうところに、それを擁護した消極姿勢もあったことは、やはり押さえておかなければいけないように思います。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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