弁護士の「人生相談」

     法律相談という場面では、弁護士側が当惑するような話もよく聞かれます。そのうちの一つにあるのは、法律相談ではなく、人生相談が持ちかけられるというケースです。

     弁護士を頼ってくる多くの依頼者・市民は、降って湧いたトラブルのなかで、動揺し、また悩み抜いています。そんな藁をもつかむような、精神状態のなかで、弁護士に会えば、一気にそうしたものが噴出することは、想像に難くないことではあります。

     ただ、こうした場面で、あくまで法律の専門家である弁護士が悩まざるを得ないのは、大きく二つです。一つは、とにかくそうした状態の依頼者に対して、なんとか肝心の適切な法律的な対応を導き出すために必要な事実関係を引き出さなければならないことです。

     いうまでもなく、そうした依頼者が身の上話をしたくても、どんどんそちらに時間が割かれれば、肝心の話ができずじまいに終わってしまいます。前記した依頼者の精神状態のなかで、なんとか弁護士として仕事を果たさなければなりません。もちろん、相談時間が長くなれば、相談料が依頼者の負担としてかさむことにもなり、それを考えれば、できるだけ早く打ち切るのは依頼者のため、という人もいます。

     私は法律家ではないので法律的な指南をするわけではありませんが、これまでも何度もそうしたトラブルに巻き込まれた市民と話し、「話したい」「気持ちを聞いてもらいたい」と思っている当事者の話を遮るのは、時に難しく、それをかいくぐりながら、一体、どういう事案で悩んでいるのかをつかむのは、結構骨が折れる場合があることを感じました。

     もっとも弁護士を仕事にしていれば、そんな経験は一度や二度ではないので、それこそそこは弁護士のテクニックともいえるのですが、現実的にそこをあまりドライに切り捨てると、「うちの先生はこちらの話を聞いてくれない」といった、弁護士からすれば、やや筋違いの不満や誤解を生む原因にはなります。

     もう一つの弁護士の悩みは、前記の使命・目的は踏まえたうえで、現実的に弁護士はどこまで人生相談の領域にまで踏み込むべきなのか、という問題です。ここは、弁護士によって見解が分かれるように思います。弁護士は「カウンセラーではない」という言葉も聞きます。人生相談ならば、別の人に頼みなさい、と言うべきだ、と。

     ただ、やや状況が違ってきたと感じるのは、弁護士のサービス業への自覚です。弁護士がよりサービス業として、お客様のニーズにこたえていこうという考え方が強まりつつあるなかで、付随サービスとしてむしろこれを考えてもいんではないか、という見方が出始めています。

     最近も、豊田崇久弁護士がブロクで、この問題を取り上げていらっしゃいました(「弁護士はカウンセラーではない、は正しいのか」) 。

     「私が、最初にお話したように、悩みにできるだけ寄り添えるようにすべきという考え方を持っているのは、弁護士稼業は、お客様あってのサービス業であると考えているからです。サービス業である以上は、できるだけお客様の需要に答えるべきだと思いますし、弁護士としてどう仕事をすべきかも、お客様が弁護士に対して何を望むのかによって変えるべきだと思っています」
     「法律のプロとして、淡々と法的サービスを提供してほしい方には、無闇に深い話に立ち入ることなく、業務上必要な限度でお話を聞き、法的サービスを提供する。心の悩み、辛い気持ちに寄り添うことを弁護士に期待されている方には、法律の話から少しわき道にそれるようなことでも、丁寧に話をお聞きする。サービス業のプロフェッショナルとして、顧客のニーズ(法的ニーズに限らず)を最大限満たす、それが弁護士としてのあるべき姿であると私は考えています」

     やはり、ここは現在いる弁護士のなかで、弁護士の在り方としても、また現実的な可能性としても、いろいろなとらえ方がされているところです。ただ、豊田弁護士の指摘のような、それを期待している市民の側からすれば、おそらくサービス業としての同弁護士の自覚を歓迎し、また、そうした弁護士の対応を求める意見は社会にも存在すると思います。

     しかし、そうした意見があることを前提とした場合でも、考えなければならないことがあります。つまり、こうした弁護士のサービスは、弁護士が競争にさらされ、余裕がなくなるほどに「自覚」によって、充実するものなのか、それとも余裕がなくなるほどに、現実は切り捨てる、もしくは切り捨てざるを得なくなっていくものなのか、ということです。

     弁護士が自らの仕事に対する考え方によるとはいえ、仮にこれを正面から受け止めるとしても、「自覚」が「ニーズを満たす」という見方では割り切れない現実が進行していることは、むしろ、大衆が分かっておかなければならないことのようにも思います。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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