国民が了解できていない「合憲」判断 

     裁判員制度を「合憲」とする最高裁大法廷の初判断が出ました。非常に大きな意味をもつ判断ではありますが、この制度に反対や疑問を投げかけている人々が、この判断にショックを受けているかといえば、おそらくそうでもないと思います。

     いうまでもなく、これまでこの制度の旗振りをしてきた裁判所がどういう結論を出すかは、大方予想を付けている方がほとんどだと思えるからです。しかし、彼らがこの判決に注目していなかったわけではありません。つまり、結論はおそらく「合憲」であっても、どういう理屈でそれを導くのか、それを待っていた方々が沢山いるということです。

     したがって、この最高裁の判断に対し、これから専門家による反撃が開始されることと思います。それを手ぐすね引いて待っていた法律家の方々がいらっしゃいます。むしろ、この制度に関する最終審の判断、その理由づけの無理を明らかにすることで、この制度の根本的な弱点を白日の下に晒すことになるようにも思います。

     法律的な分析は彼ら法律家の反撃を待つとして、いくつかの違憲主張を、あっさりと退けている印象の今回の判断のなかで、あえてここで取り上げておきたいのは、「意に反する苦役」の点です。つまり、「裁判員制度は、裁判員となる国民に憲法上の根拠のない負担を課すものであるから、意に反する苦役に服させることを禁じた憲法18条後段に違反する」という違憲主張です。

     最高裁の結論はもちろん、これに当たらないとするものですが、問題はその理由づけです。判決理由は、裁判員が職務に従事し、裁判員候補者として裁判所に出頭することが、国民にとっての「一定の負担」であることを認めたうえで、こう言っています。

     「しかし、裁判員法1条は、制度導入の趣旨について、国民の中から選任された裁判員が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与することが司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資することを挙げており、これは、この制度が国民主権の理念に沿って司法の国民的基盤の強化を図るものであることを示していると解される。このように,裁判員の職務等は、司法権の行使に対する国民の参加という点で参政権と同様の権限を国民に付与するものであり、これを『苦役』ということは必ずしも適切ではない」

     非常に重要なことを言っています。前段は国民が職業裁判官とともに刑事裁判に関与することで、司法への理解増進につながる、これは国民主権の理念に合致しているという制度趣旨の肯定論。後段は裁判員になることは、参政権同様の国民の権限だという裁判員権利論です。

     実は、これは判決理由に書き込まれるまでもなく、これまでつとに制度推進派の方々が主張してきた代表的な制度肯定論です。制度が司法の理解につながるという効用をあたかも民主的制度として描くとともに、参加への義務化をいう主張に対して必ずいわれる、これは国民の権利だという主張です。

     ある意味、恐ろしいことですが、さも当然のようにいわれるこれらの論法は、多くの国民の了解事項とは言い難いものです。司法に対する国民の理解を増進するということは、もちろん国民が求めたわけではありませんが、仮にお上が規定したことであっても、それについて、今、理解を増進するための方法が、強制的に国民を法廷に呼び出して裁判に直接参加させる方法しかない、と思う国民はどれほどいるのでしょうか。

     さらに、いうことにことかいて、これを強制によって義務化されているのではなく、国民の権限、しかも、参政権と同様という認識がどこにあるでしょうか。いうまでもありませんが、参政権を罰金付きで強制するという話もありません。もちろん、この参加を人民が勝ち取ったものという意識も歴史もこの国にはありません。

     この国民が了解できていない、少なくとも了解できているとは断定できないこの事実を前提として、だから「苦役ではない」という主張は、いかに法律的な文章として体裁を整えていようとも、前記引用した判決の理由の中に随所に登場する、肝心の「国民」とは、全く隔絶した見方というほかありません。

     このことに、もし、国民から疑問の声が挙がらないとすれば、その理由は明らかです。それはこうした疑問を喚起するような報道を推進派の大マスコミが行わないからです。国民的基盤という言葉を使いながら、実は国民に問題性を実感させず、ひたすら制度維持に誘導する、アンフェアなこの「改革」の現実です。


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    「違憲」には違和感が

    原告被告の主張を読んだわけではないのでピントはずれかもしれませんが、「裁判員として義務的(強制的)に法廷に引っ張り出される」ことと憲法の禁じる「意に反する苦役」というのがどうも結びつきません。
    確かに刑事裁判という重い場面に連れていかれて、相当重大な判断をさせられるわけですから、しんどいことではあります。しかし憲法に反するとまで言えるのかどうか。違憲どうこうより、制度設計がおかしいというレベルの話に過ぎない、というのが私の受け止め方です。
    この制度については、実際に裁判員の経験をされた方も含めて、いろいろな人からの意見がもっと出されて議論になるべきだとは考えますが。

    マスコミのせいか?

    「もし、国民から疑問の声が挙がらないとすれば、その理由は明らかです。それはこうした疑問を喚起するような報道を推進派の大マスコミが行わないからです。」
    どんだけ 国民を愚民視 しているんだよ、
     
    PS 感情論じゃない書き方で書きたかったけど自分には無理っす、理論や理屈はわからないけど、裁判員制度には賛成っす @kzaukzaufu
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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