弁護士激増と需要「掘り起こし」の危うさ

     弁護士を増やしても、その需要も増えるということにはならないのではないか、ということを、実は弁護士界外の人間から、よく言われます。これは、素朴に考えれば、当然の疑問のようにも思います。

     いうまでもなく、弁護士は社会に現に存在する、広い意味での事件の処理に対応して、その必要性がいわれる仕事ですから、増えることで事件が増えるのでなければ、前記したような理屈にはならない、というわけです。「まさか自ら事件を作り出すことができるわけでもあるまいし」と。

     もちろん、これに対して、前記した理屈を成り立たせるものとして、増員を推進する側がいうのは、潜在需要ということになります。つまり、本来弁護士がいたならば、頼みたい案件がこの社会には沢山あって、数がいないことによって表面化していないのだから、増えることによって、需要は顕在化してくるということになります。

     ただ、もし、その潜在需要がなかったならば、正確に言えば、増やした数に対応して、経済的に支えきれるだけのそれが存在しなかったならば、どういうことになる危険性が高いのかもはっきりしています。いうまでもなく、前記「まさか」が行われるということです。

     つまり、これまで弁護士や司法のごやっかいにならずに済んでいたもの、もしくは市民がそうなることを本来的に求めていないものを、事件として扱う方向に持っていくことになりかねないということです。もちろん、これを弁護士は事件の焚きつけなどということはなく、あくまでこれも「潜在需要」の掘り起こしとして強弁するでしょう。しかし、そうなった場合に、どれくらいの市民が、その焚きつけと掘り起こしの区別がつくかも疑問というべきです。

     弁護士は「身近な存在」を目指す意味で、「医師」にたとえられていますが、この需要をつくるために事件化する弁護士を、あえて医師でいえば、患者が見抜けないことをいいことに、必要のない薬を大量に処方する悪い医師のような存在といってもいいかもしれません(「弁護士が『事件』を作る社会」)。

     弁護士の有志でつくる「法曹人口問題全国会議」が、今年8~9月に全国の弁護士に法曹人口と弁護士の需要に関して、行ったアンケートの結果がこのほど発表されました。1162人から回答がありました。

     最近の相談や受任件数の増減傾向に関して、「減少」しているが69.8%と、「増加」の3.9%を大きく上回り、弁護士に需要拡大が望める分野・範囲があると考えるのか、との問いにも、「ない」と思うが50.9%で「ある」は12.3%にとどまっています。

     また、今年4月1日現在の弁護士人口約3万500人は「多い」62.0%(「少ない」2.2%、「適当」22.2%)とし、さらに、今後10年で法曹人口5万人の法的需要が見込めると「思わない」とした人は、実に90.4%(「思う」2.2%、「分からない」5.6%)を占めています。妥当だと思う年間司法試験合格者数も、「800~1000人以下」が最も多く45.1%、「500人~800人以下」20.9%、「1000~1500人以下」14.2%がそれに次いでおり、現状が当てはまる「2000人~3000人以下」はわずか0.8%足らずという結果でした。

     同会議の事務局長を務める武本夕香子弁護士は、自身のブログで、この結果について次のように述べています。

     「この弁護士アンケート結果を見て戴ければ、いかに弁護士が過剰であるかが少しはおわかり戴けるのではないかと思います。マスコミは、『弁護士が足りない』と言われますが、弁護士の実感としては、弁護士は社会に溢れており、『弁護士が足りない』地域あるいは分野があるとしても、それは医師不足の問題と同じく、適正配置の問題であって、総体的に『弁護士が足りない』わけではありません。それを故意に混同させているのか、過失で混同されているのかはわかりませんが、正確な報道をして戴きたいものです」

     地域や分野によって、弁護士が必要という意見が仮に正論でも、それはそこに配置することの問題であり、分野にしても、そこに充当される人材を考えなくてはいけないことで、その主張をもってして全体の数を増やすという話は乱暴だということです。もとより、その地域配置や分野が大量の増員弁護士を経済的に成り立たせる形の「受け皿」になり得るという見通しが具体的にある話でもないのです。

     それでも、おそらく前記アンケートに答えていない弁護士を含めて、「潜在需要」はまだまだある、といっている方もいらっしゃいます。弁護士に「あぐらをかかせるな」と反省を求めるのも結構ですが、その描き方と前記されているような現実とは明らかなギャップがあります。

     となれば、どうなるのかは、まさに前記した通りということになります。このアンケートを見ても、この激増政策の先に待っている結果に穏やかな気持ちでいられないのは、決して弁護士だけではないはずなのです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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