「在るべき法曹像」という議論の行方

      「改革」論議のなかで、度々登場してきた「在るべき法曹像」とは、一体何であるのかと思う時があります。この疑問は、法曹の在るべき姿がどういうものか、というおそらくこのテーマが想定しているだろう、具体的な中身のことではありません。この設問の「在るべき」とは、一体何を指し、何を議論しているのか、ということです。

     いうまでもなく、「在るべき」とは誰にとってか、という問題があります。多様化するとくくられる法曹の役割にあって、それを具体化しようとすればするほど、そこは問題なります。そのいくつもの立場から、求められている姿についての、いわば共通点を見つけ出すという話なのか、それともそのいくつもの像をここで列挙するという話なのか。

     「社会が必要とする」とくくられるほどに、それは抽象的になり、共通項を持つ全く違う像が浮かび上がるかもしれませんし、いくつもの像の列挙は、むしろ探らなければ分からない共通項を秘めて、その違いだけを浮き彫りにするものになるようにも思えます。最低限クリアすべき法曹の条件ということになってしまえば、そこには社会があるいはそれぞれの場面で期待する姿の話ではなくなってくる感じもあります。

     10年前に司法制度改革審議会という場でくくられた、それは、果たしてどう解釈されるべきだったのか、あるいはそれに向かって構築された制度が、今、抱えている問題を考える時、そのことを問うのか問わないのかで、当然、今後の議論も変わってくると思えるのです。

     「給費制」問題に一区切りをつけて、法曹養成全体の問題へ、議論の第2ラウンドに入った10月24日の「法曹の養成に関するフォーラム」第6回会議でも、この「在るべき法曹像」が取り上げられました。全体的な印象としては、結論から言えば、司法審のいわば、理念的に描いたものをどこまで再検証するのか、前記したそのとらえ方も含めて、そのどこに誤りがあり、何を「反省」するのか、どこまで仕切り直す議論にするのかといったことは見えてきません。

     今回の会議では、例えば、委員からはこの10年間のとらえ方として、いわば「お任せ司法」が変わっていない、高度・専門化するなかで、むしろ国民と司法を遠ざけてきたという見方、少子化や高齢化、人の海外流出といった現状から考えて、当時、想定した社会と現状は一致しているのかといった問題提起があった半面、司法審ビジョンを擁護する意見、法科大学院制度を含め、基本的方向を正しいとする意見が出されています。

     このなかで、委員である鎌田薫・早稲田大学総長は、こう語っています。

     「私自身はこの法科大学院制度をつくる段階で、法科大学院を通じて養成しようとしているのは、法曹資格者なのか、優れた法律実務家なのかというところの議論が必ずしもきれいに整理されていないのではないかということを疑問として持っていました」

     ここの点が、論者によって考えが違い、今後議論する職域の拡大というのも、法曹資格者の職域を考えるのか、優れた法律実務家が求められている職域を考えるのか、あるいは司法試験の合格水準としても、どういう法曹像に見合った試験科目・試験内容・合格水準なのかは変わり、法科大学院の教育の質の目標も変わりかねない、としています。

     ある意味、法科大学院関係者として、正直なご意見ではありますが、散々取り上げられてきた印象がある「在るべき法曹」というものが、実は法曹養成という観点で、具体的にどういうものをどこまで射程にするのかが定まらず、鎌田委員がいうようなおよそ基本的な共通認識に立てないまま、法科大学院がスタートし、ここまできたことをうかがわせます。結果、多くの理念を掲げながら、合格率が評価を決めるという、いびつな構造になっているのが現実です。

     さらに、鎌田委員は、こう続けます。

     「現在の司法試験は、どちらかと言えば判定の基準から言うと、やはり伝統的日本モデルの法曹を養成していこうという路線で行っている。そうだとすると、今後3000人合格を目標にするというのは、アメリカまでいかないけれども、それに近づけたモデルを想定して法曹人口論を展開しているのか、あるいは伝統的日本型法曹像をモデルにして、しかしその数をもっと増やしていかなければいけないということで議論しているのか。そこのところが私の感覚では必ずしも意見の一致がないところに、法曹人口論にしても、職域論にしても、議論のずれがあるのではないかなということです」

     実は法科大学院修了者について、必ずしも法曹資格者ではない形を含め、社会で活用されることを想定していたとする見方、さらには「隣接士業」といわれる弁護士周辺士業の役割の位置付けをどうみるかによって、年3000人合格という目標の意味付けは違ってきます。

     ただ、これもまさに「在るべき」論ではなく、現実を基準にしなければなりません。「伝統的」というもの以外のモデルが、どれほどの「受け皿」なのか、そもそも現にあるニーズではなく、そこにどこまで現実的な「開拓」という発想を込めているのか、さらに周辺士業の存在をどこまで算定して、弁護士の数を考えているのか、というテーマを、当然考えなければなりません。

     「社会のすみずみまで」法曹が登場するような描き方が、「在るべき」像のなかに描き込まれている限り、ともすれば、これはまた見誤る点というべきだろうとも思います。

     「フォーラム」が、今後、どこまで司法審の「理念」の呪縛から解き放たれて、これらのテーマを議論できるのか。委員から次々と、まず、その「正しさ」をいう言葉が連なるのをみると、やはり不安なものがあります。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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