弁護士が「事件」を作る社会

     最近の弁護士のブログで、こんな言葉が書かれていたのが目にとまりました。厳しい修習生の就職状況、過払い事件減少後の弁護士業界への不安について述べたうえで、彼はこう言います。

     「でも、事務所経営維持のために、些細なこと(当事者同士で解決可能なこと)でも、弁護士が介入して事件化させることはあって欲しくないです。弁護士、裁判所をはさんだ解決はあくまで最終手段であって、当事者同士で解決可能であれば、解決した方がいいに決まっています。弁護士費用はかからないし、当事者間にシコリも残らないでしょうから」(「弁護士川浪芳聖の『虎穴に入らず虎子を得る。』」)

     これを読んだ一般の人は、あるいは「当たり前のことじゃないか」と思われるかもしれません。弁護士や裁判所を頼むのは、それこそ「最終手段」であり、まず、当事者同士で解決することを目指すだろうし、まして「些細なこと」を弁護士が「事件化」するなど、もってのほかだと。

     ただ、ある意味、奇妙なことですが、実は今回の司法改革が目指した社会とはどちらかといえば、その「あって欲しくない」社会、あるいはそれと見分けがつかない社会だと思います。社会のすみずみにまで「法の支配」を行きわたらせるという描き方は、社会生活の様々な場面に弁護士が乗り出してくる社会でもあります。その需要が沢山あるから、弁護士を激増させなければいけないという結果が、冒頭の就職難と弁護士業界の将来不安につながってしまいました。

     誰が見ても需要が本当に沢山あれば、こんなことにはなりません。そして、どうなるのか、というのが、川浪弁護士が「あって欲しくない」としている弁護士による「事件化」ということです。実は、同弁護士の意見は、正直なものだと思います。つまり、多くの弁護士はこうなる危険性をよく分かっているということだと思います。

     そもそも何がおかしいのかは、はっきりしています。つまり、司法制度改革審議会が最終意見書で打ち上げた前記「改革」の基本的な発想が、前記ブログが「いいに決まっている」とくくった当事者同士の解決のうえで、司法を最終手段とするという考え方に立っていないことです。むしろ、そこに不正解決や泣寝入りを描き込み、望ましくない社会のように位置付けているようにもとれます。

     「改革」は市民にとっての弁護士とのかかわりを、「社会生活上の医師」という表現でも分かるように、「最終手段」ではなく、社会生活に身近なものとして描き、当然にこれまではご厄介になっていなかった案件、そうした段階ではなかった案件を弁護士や司法に持ち込む世界を目指そうとしています。

     この話をすると、多くの人はびっくりして、「それは息の詰まる社会だ」と言います。まして、「改革」は川浪弁護士が指摘しているような、より費用がかかることや当事者間によりシコリが残る可能性を考慮しているようにも見えません。以前、書きましたが、社会学者の宮台真司氏がいうように、日本は米国のような訴訟社会ではなく、「隣人を訴えただけでもバッシング」されたりする国であり、「できれば自分たちで解決してどうしてもダメなものだけ法の裁きを受けましょうという法文化」があるにもかかわらず、その違いをわきまえず米国のように弁護士増やす方向を選択したととれるのです。

     別の弁護士ブログでは、こんな書き込みもありました。

     「原発被害者を顧客としてホームページで募集する弁護士が出現したそうです。他人の不幸を助ける。他人の不幸を食う。どちらでしょう」
     「いずれにしても、不幸がないと食っていけないのが弁護士。これからの時代、不幸が増えるから弁護士の増員が必要だったのか。あるいは、逆に、弁護士が増えたから、不幸が増えるのか」(「taxMLの紹介」関根稔法律事務所)

     弁護士が乗り出すことは、紛争が生まれ、そして不幸もまた生まれるのではいか、という声を、実は弁護士から聞くことがあります。「事件化」の恐れを含めた肌感覚ともいうべきものがあるのかもしれません。同法律事務所のブログはこんな言葉で締めくくっています。

     「サラ金が悪く、詐欺師が悪く、東電が悪いのであって、弁護士は救済者である。それは弁護士が正しい仕事をする場合に限り、言えることだろう。しかし、食い物が無く、飢えているオオカミに、子羊を食ってはならないと教えても、それを守るゆとりがあるだろうか」

     「改革」の向こうに、こんな社会が待っているかもしれないことを、多くの国民はまだ知らされず、気が付かないでいます。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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