弁護士「ギルド批判」の役割

     弁護士・会に独占体質があるとして、中世の職業別組合に例える、いわゆる「ギルド批判」というものが、いつ誰が言い出したことなのかは、はっきり分かりません。とりわけ、弁護士の数の問題をめぐり、それを需要に対して、弁護士会が長年、保身のために抑制する政策をとるよう働きかけてきたとする見方と結び付けられるとき、今回の「改革」以前から、時々、耳にしてきた言葉ではありました。

     ただ、この言葉を見ると、ある記事を思い出します。2000年に日本経済新聞社が組んだ連載「司法 経済は問う」の2月1日付け「第3部 特権は誰のために」。この記事に、東京・霞が関の弁護士会館の写真とともに、載っていた見出しが「ギルドの塔」というものでした。

     司法制度改革審議会が開催中の、まさに司法改革論議が大きなヤマ場を迎えたこの年、日経の企画は、その「改革」に揺れる弁護士会の現状をレポートしたものでしたが、そこには従来の弁護士会のあり方に対する厳しい評価がちりばめられていました。

     「日弁連は最高裁より官僚的」というヤメ判弁護士のコメントに続き、委員会、理事会、総会といった日弁連の重層的な議事構造を意思決定の遅れや役職ポストの人事紛争と結び付け、組織の制度疲労があるとしました。

     さらに、東京三弁護士会合併を目指した一派のコメントを引用して、東京・霞が関の豪華な弁護士会館の中で、相談コーナーが狭いスペースに押しやられているのは、三弁護士会のエゴによる「占有面積の分捕り」合戦が原因で、その結果、大阪の3倍強の弁護士がいる東京の相談件数は3分の1に落ち込んでいるとしていました。

     ちなみに日弁連が重層的な意思決定の議事構造を持っているのは、あくまで自治を持つ強制加入団体として、会内民主主義を担保するために求められるものであり、意思決定の遅れをそれと結び付ける言い方は、つとに官側が日弁連批判の中で言ってきたことです。

     また、相談件数については、当時、取材したところ、大阪の各自治体に弁護士会から派遣して行っている相談を加えたものと、東京は弁護士会館だけで対応したものとを比べたもので、会レベル同士、あるいは東京23区レベルの件数で比べれば東京がはるかに上回っていました。そもそも法律相談の利用頻度をスペースの問題だけから見るのもおかしな感じがする記事です。要するに、批判ありきの書き方なのでした。

     しかし、記事はこれにとどまりませんでした。例えば、民事訴訟法改正で日の目を見なかった「司法委員制度」は日弁連の反対で「市民の司法参加」が葬られたと指摘。大学教員の弁護士資格拒否をめぐる訴訟での日弁連敗訴をあたかも、不当な資格審査の実態として描き、さらには1960年代の臨時司法制度調査会にさかのぼり、日弁連が「改革」の足を引っ張り、イデオロギー対立の中、「反臨司路線」が幅を利かせてきた、と。

     ちなみに、これも臨司以降、日弁連の抵抗によって「改革」が停滞したという、最高裁側から聞こえてきた典型的な批判的論調です。

     もはや「ギルド」の意味を越えた日弁連と弁護士批判、すべてをエゴと結び付ける描き方の代名詞が、いつの間にか「ギルド批判」といわれるようになっているのも、この記事を見れば、なんとなく分かります。

     ただ、この「ギルド批判」を弁護士たちは、当時、どう受け止め、また、今日までどう受け止めてきたのでしょうか。実は、これが多くの弁護士の精神を痛打した面も否定しきれません。

     この記事の中にも、「当時は市民の司法参加に対する認識が薄かった」とか、「日弁連の路線は改革を30年遅らせ、国民の裁判離れを招いた」とする実名の弁護士のコメントも掲載していました。つまりは「自己批判」です。

     しかし、この記事を含めて、この時期にみたこうした批判は、今、改めて「改革」をめぐる当時の状況を考えると、全く違った姿にも見えてきます。当時、「改革」の流れを法曹界外から作ろうとしていた勢力からすれば、弁護士の数の問題を含め、やはり弁護士・会が最大の抵抗勢力になることが予想されていたと考えられます。

     それを彼らの「改革」路線に巻き込むためには、自ら「改革」を主導すると掲げている日弁連・弁護士会に自己改革を強く迫る必要があり、そのためには、会員の強い「反省」と「自己批判」が必要だったのではないか、ということです。自己批判を突きつけられることで、自ら挙げた「改革」の手を日弁連・弁護士会は下ろすことはできなかった、ということになります。

     結果、日弁連・弁護士会は、「改革」の協力者として、司法審路線を今日まで走ってきましたが、気が付けば、弁護士だけが大増員する方向が既定方針になり、「この改革は弁護士の変質が狙い」といわれるほどに、弁護士が変わらざるを得なくなる「改革」だった、というわけです。

     そう思えば、あの時代に声高にいわれた「ギルド批判」の先に、「改革」とその結果としての今があったようにも見えます。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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