「給費制」廃止延期の1年

     「給費制」廃止、「貸与制」移行が延期された、この1年間は、どういう意味を持ったのでしょうか。もちろん、これは、誰にとってか、ということによって話は違います。

     もともと昨年、「貸与制」移行を考えていた方々からすれば、6年前に給費制を5年後になくすということを法律で決めていたのに、日弁連の維持しろという運動で、一気に国会で延期が決まったという認識ですから、この1年という期間延長に、意味を見出していないというべきです。

     「法曹の養成に関するフォーラム」の第1回会議で財務副大臣が述べているように、要するにこれは「迷惑」というとらえ方で、議論不足はむしろ延期決定にあったということであれば、その不当性をはっきりさせることの方に意味があるととらえていてもおかしくありません。

     もっとも、この会議で「大変関係各所にご迷惑をおかけしました」と、まず、詫びを入れたのは、日弁連オブザーバーだったわけで、たとえそれが、図らずも急ブレーキをかけることになってしまいまして、くらいの「大人の対応」だったとしても、この延期がどうしても必要であり、正当な主張であることを強調するのであれば、この対応はどうであったのか、という疑問も残ります。

     では、法曹志望者あるいは社会にとってこの延期はどういう意味があったのでしょうか。昨年11月にこの延期を決めた裁判所法一部改正の趣旨として衆院法務委員会では、「昨今の法曹志望者が置かれている厳しい経済状況にかんがみ、それらの者が経済的理由から法曹になることを断念することがないよう、法曹養成制度に対する財政支援のあり方について見直しを行うことが緊要な課題」とされ、またこの1年の間に「個々の司法修習終了者の経済的な状況等を勘案した措置の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずること」とする附帯決議も付いていました(2010年11月24日、衆院法務委員会)

     つまり、ここで規定されたこの1年延期は、法曹志望者が経済的理由から法曹になることを断念することがないようにするためという目的に向かって、個々の修習生の経済的状況を勘案して検討し、措置を講じるため、というはっきりしたスタートラインにひとまず立ったことを意味します。

     しかし、この意味で、この1年を評価できる法曹志望者はどのくらいいるのでしょうか。結局、弁護士の収入調査から「貸与制」でもやれるという結論を「フォーラム」が出しても、多くの法曹界関係者は「貸与制」移行によって、現実問題として、「経済的理由から法曹になることを断念する」人は増えると見ています。

     つまり、当初の1年延期の目的として掲げられたものは達成されていないというとらえ方ができます。「給費制」廃止、「貸与制」移行の正当性が確認された、という位置付けであれば、「貸与制」移行によっては、志望者の断念は生まれない、という読みかもしれませんが、結局、これはやはり、前記した昨年の延期の不当性を明らかにすることを目的とした期間と同じになってしまいます。

     もし、延期が趣旨でいわれているように、「経済的理由により法曹になることを断念することがないよう」にするためのものだとすれば、「給費制」廃止だけでなく、法科大学院制度自体が経済的負担であり、断念の複合的な要素になり得る以上、附帯決議がもう一つ掲げたような「法曹の養成に関する制度の在り方全体について速やかに検討」を合せ考えなければ、やはりその目的を達成し得ないように思います。

     民主党法務部門会議で「給費制」存続の意見が強く出され、扱いを一任されていた前原誠司・政調会長が1日、「貸与制」移行方針を了承したとの報道が流れました。その記者会見で、同会長がこう廃止理由を説明したという報道もあります

     「私も父を亡くしてから奨学金を活用し、中、高、大学と学ばせてもらった。借りたものは返済することが法曹界に限らず基本だと思う」(11月1日、時事ドットコム)

     いうまでもありませんが、「給費制」は奨学金ではありませんし、存続を主張している人々は、借りたものを返済したくない、といっているわけでもありません。もし、これを本当に例えとして使ったとすれば前原氏の、また、これを廃止理由として意味ある個所として記事にしたとすれば報道側の、給費制に関する全くの無理解によるものといわれても仕方がありません。

     結局、「給費制」がこれまで存在してきた本当の意味も、「貸与制」移行が何を生むのか、さらには、志望者の断念が何によってもたらされるのか、といった本質的な話は、国民に伝わらないまま、あるいは伝えないまま、「特権を外せ」というニュアンスだけが伝わって、「給費制」は消えてもらう話になっているように見えます。

     社会にとってもまた、この1年の延期期間が、将来の司法のための、意味ある議論の期間になったようには、とても思えないのです。


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    No title

    関係者が思っているほど「特別」だとは思われていないということではないでしょうか?

    お金が無ければ断念する「人がでる」業種など研究者しかり文筆家しかり医師しかり、いくらでもあります。
    法曹「だけ」が特別に税金によって支援を受けなければならないと主張するには論拠が薄すぎると思います。

    多くの国民もそう思っているからこそ給費制への支持が広がらないのではないでしょうか?

    そもそも現状でもお金持ち家庭の出身者が法曹になっているという現状もありますしね
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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