「ギルドの塔」と呼ばれた弁護士会館

     東京地裁・高裁、検察庁などが集中している、東京・霞が関の「司法街区」といわれるところに、日弁連と東京の三つの弁護士会が入っている、弁護士会館があります。

     地上17階、地下2階。その建物の近代的な立派さには、いまだに驚く市民もいます。「へー弁護士会館ってこんななんだ」と。少なくとも、そういう市民が抱いた弁護士・会のイメージとは、どこか違っていたのでしょう。ただ、逆にそうも思わないという市民の気持ちを推察すれば、「まあ、弁護士だから、このくらいリッチで立派で当然だろ」といったところかもしれません。

     人の感じ方はさまざまですが、それでも私は時々、弁護士がかつての古めかしく、汚い弁護士会館で頑張っていたら、前記したような市民の印象はどんなものになったろう、と、つい想像してしまいます。

     以前は、東京の三弁護士会館が今の建物より奥まったところに、東京弁護士会会館を真ん中に、三つ並んであり、日弁連は少し離れた、法曹会館の裏、旧東京地裁の横あたりにありました。

     私が最初に行った30年くらい前、既に古めかしく、お世辞にもきれいな建物ではありませんでした。ただ、いかにも日本の司法の歴史を見てきたという印象を与える、風格がありました。理事会などが開かれる日弁連の講堂は狭いため、総会や選挙の投票会場には、この四つの建物で一番大きな東京弁護士会の講堂が使われたものでした。

     なにせ日弁連会館が1936年昭和11年、東京弁護士会館に至っては1911年明治44年の作品です。まあ、有り体にいえば、既にぼろぼろの老朽化した建物でしたし、エレベーターもなく、お年寄りの弁護士が上がるのにも難儀するという話だったので、使う側からすれば、なんとかしなければ、というのも当然です。

     ただ、今より迫力がありました。三弁護士会の建物正面の壁には、「拘禁二法反対」とか「刑法改正阻止」の巨大な垂れ幕が下がったりして、その印象はいかにも闘ってる弁護士会、いわば砦というイメージに近かったようにも思います。そういえば、現在の弁護士会館は、およそこの手の垂れ幕も似合いません。

     今の新会館ができるまでは大変な道のりでした。新会館を作ろうとして日弁連が準備委員会を作ったのは1972年のこと。竣工したのは1995年ですから、実に20年以上の歳月を要したわけです。

     なんでこんなことになったかといえば、日弁連と三弁護士会合同になったことで、設計段階から、延べ床面積の配分から、講堂の共有まで、いろいろと四者の間で、すったもんだしたこともあります。建設費用は155億6千万円。おカネは会員から特別会費をえんえんと徴収し、それでは足りずに寄付金を集めることになったけど、税軽減のための特定・指定寄付の指定をめぐり、弁護士会だけの特別扱いに難色を示した大蔵省との間でもめたりと、まあ、こんな調子です。

     いっそのことこの機会に三会を合併したら、という主張も登場し、「三会合併派」として運動したこともありましたが、結局、うまくはいきませんでした。

     多くの東京の弁護士が、これらの問題に相当な労力を継ぎこんだというのが、当時の印象です。多くの地方会員には、ほとんど利用しない首都の会館の問題ですから、「あんまり関係ない」と冷やかな見方をする人もいましたが、まあ、地方会員の協力もなければ、進まなかったでしょう。

     そんな大変な思いをして、竣工にこぎつけた今の新会館でしたが、完成直後の、ある新聞は、この会館のことを皮肉たっぷりに「ギルドの塔」と銘打ちました。弁護士会には自由競争を排除した独占体質があるとして、それを中世のギルドになぞらえた、いわゆる「ギルド批判」というものが、経済界やマスコミの中にありました。豪華にそびえたつ新会館は、その象徴だというわけです。

     折角建てた新会館を、のっけからこう言われるのも関係者には気の毒な話ではありましたし、そもそも「ギルド」という評価に真剣に怒った弁護士も沢山いました。

     「ギルドの塔」なんて言い方をする人は、今はいません。ただ、冒頭書いたように、人の感じ方はさまざまです。新会館が大衆の弁護士・会イメージに、時に重なって評価されることもまた、あり得ることです。いつのまにか建物だけでなく、弁護士のイメージに、あの垂れ幕は似合わなくなってしまっているかもしれません。

     この会館が日本の弁護士の何の象徴とされるかは、やはり今とこれからの弁護士の姿にかかっているようには思います。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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